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ディープ・アクティブラーニングのメモ:第2章・関与の条件

カテゴリ:読書の記録

この章では「学生の関与(student engagement)」について取り扱われている。「学生の意欲・関心を喚起し、授業内の学習活動に積極的に参加してもらうためにはどうすればよいか。」大学教育の枠組みの中で日に日に強まる問題意識の中で生まれ出てきた概念だ。

かなりボリュームのある章なので、自分の理解に従って大胆に整理していく。

「学生の関与」を、2つの主要素から定義する

“engagement”は、人の命や名誉をかける(pledge)ことや誰かを味方につけるほど魅了することを言い表す古代フランス語である。

ディープ・アクティブラーニング

学生が学習に関与しているというとき、それはえてして「動機づけ」の文脈で語られる。関心や情熱を持っているかどうかがその条件として語られることが多い。これとは別に、「学んでいる事柄を理解しようと」する姿勢や、「眼前の課題に没頭していて、高次の思考スキルを使っている」状態を学生の関与と見なす大学教員もまた多い。

学習とは、新しい情報を既知の事柄と結びつけて意味と意義を構成することからなるダイナミックなプロセスだということを、彼らは認識している。

ディープ・アクティブラーニング

(まさに本書で語られている「ディープ・」そのものだ)

これらを合わせると、学生の関与は、動機づけとアクティブラーニングという2つの要素からなる、と言える。ここで重要なのは、関与は両者の重なり合いとしてではなく、両者が相乗的に作用しあい、強度を高めていくような二重らせん的モデルとして捉えるべきという点だ。こうして、次のような定義が提案されている。

<学生の関与とは、ある連続体上で経験され、動機づけとアクティブラーニングの間の相乗的な相互作用から生み出されるプロセスとプロダクト(産物)である>

ディープ・アクティブラーニング

動機づけ理論について

第一の要素である動機づけについて、幾つかの研究が歴史的変遷と共に紹介されているが、この記事では特に重点的に取り扱われている「期待×価値モデル(expectancy × value model)」について取り上げる。

このモデルでは、人が課題に注ぐ努力は、その課題をうまくやり遂げられるかという期待の程度(期待)、および、課題それ自体をやり遂げるプロセスに関与する機会と報酬にどのくらい価値をおくかという価値づけの程度(価値)の産物であると考えている。

ディープ・アクティブラーニング

つまり、課題を重要と思い、かつやり遂げられると思うことで動機づけされるということだ。そうして、次の2つの問いが提示される。

「あなた(あるいは、あなたが指導している教員)は、学生が自分の学んでいることに価値を見出すよう援助するために、何をやっていますか?」

「あなた(あるいは、あなたが指導している教員)は、学生が努力すればうまくやれると期待できるよう援助するために、何をやっていますか?」

ディープ・アクティブラーニング

動機づけは個人的なものであるから、学生を外的に動機づけることはできないが、「動機づけを高められていると感じられる文脈を作り出すことはできる」。

アクティブラーニングについて

アクティブラーニングの意味するところは、頭(mind)がアクティブに関与しているということなのである。

ディープ・アクティブラーニング

この意味においてのアクティブラーニングの背後にある認知的処理を理解するために、という前置きで、神経科学、認知心理学や短期/長期記憶などに話題が飛ぶが、正直なところ内容が頭に入りきらない部分もあるため、気になるところを箇条書きにまとめてみる。

・既存の知識が多ければ多いほど、新しい情報を学習したり保存したりすることは容易になる。これは神経科学と認知心理学いずれのアプローチでも結論づけられる事柄である。

・短期記憶が長期記憶に転ずる「重要な要因の1つは、情報が『意味をなす(make sense)』か、つまり、世の中の仕組みについて学習者がすでに知っている事柄と、新しい情報がうまく合致するか、ということである。」「もう1つの重要な要因は、情報が「意義をもつ(have meaning)」か、すなわち、学習者にとって関連性があり、学習者が記憶する理由をもつものなのか、ということである。」

・ここでも問いが投げられている。「あなた(あるいは、あなたが指導している教員)は、学生が自分自身の学習にアクティブに参加し、それによって、関与のある学習に求められるレベルで自分自身の知を『構築』していけるよう援助するために、何をやっていますか?」

深い関与

動機づけとアクティブラーニングの相乗効果をどう促進すればよいだろうか。ここでは3つの条件が提案されている。

(1)条件1:課題は適度にチャレンジングなものであること

「期待」と「価値」を両立するために、頑張ればうまくやれそうな新しい学習内容を提示することが効果的だ。さらに、ある程度理解が進んでいる学生にはより高度な内容にチャレンジさせるとか、学生が学習方法を自分で選択できるようにするなど、一律的でない対応をする工夫も効果的である。

(2)条件2:コミュニティの感覚

学生同士のインタラクションが生まれるような環境づくり、関係性づくりが、学習コミュニティへの所属感を生み、学生の関与を生み出す。

(3)条件3:学生がホリスティックに学べるよう教えること

踏み込んだ提案にも見えるが、ここで言う「ホリスティック」とは、認知に偏らず、情動や身体の領域も考慮する、という意味である。それはマルチメディア対応という形にもなるし、学習に対する情緒的不安を取り除く支援をする、という文脈にも発展する。

感想

「学生の関与」という概念は明らかに学習パラダイムの産物であるが、特に気に入ったエピソードを紹介したい。著者も若かりし頃、学生の学ぶ意欲の低さを憂いていた。

教員歴の初めの頃、このことに不平をもらしたら、経験を積んだ熟練教員の同僚にこうたしなめられた。「『私は学生に教えたのに、学生学ばなかっただけだ』と言うのは、『私は客に車を売ったのに、客は車を買わなかった』と言うのと同じだ」と。

ディープ・アクティブラーニング

第2章で特に重要と感じたのは、「学生の関与」というものは学生自身の問題であり、外的な力でもって「学生を関与」させることには無理があるものの、授業を設計する側がそれを「支援」することは可能だ、という点だ。こう書くと至極当たり前のことではあるが、ここには一定のわきまえと、その上でできることを考える前向きさを感じる。

 

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