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ディープ・アクティブラーニングのメモ:第3章・学習の教授学理論に向けて

カテゴリ:読書の記録

この枠組みの重要性は、個別の学習対象(object of learning)―学生が学習することになっていることの真の内容―に教員の注意を向けている点にある。この理論はまた、学習を可能にするには何が必要なのかを一般的な言葉で提案する。バリエーション理論(variation theory)と呼ばれている教授学理論がそれである。なぜ、バリエーション理論と呼ばれているかは、本章のなかで明らかになるだろう。

ディープ・アクティブラーニング

というわけでこの第3章では「バリエーション理論」が取り上げられている。授業の方法やアイデアについてではなく、よりレイヤーの低い次元を、つまり「人がどんなふうにさまざまなやり方で世界を見るようになるのか」を扱う理論だ。とはいえ、内容が抽象的で論点を特定しきれずに読み終わった感があり、ここにはやや消化不良気味にまとめることになる。

まずはその基本的な考え方を箇条書きにしてみる。

・この理論では、新しい状況をより有効なやり方で扱う方法を学ぶには何をする必要があるかについて問う。
・そのためにまず、新しい状況を有効なやり方で見ること、すなわち本質的特徴を見分けることが必要である。
・そしてその本質的特徴をホリスティックに見ることが必要である。
・さらに、本質的特徴を見分けるためには、学習対象におけるバリエーションと不変(variation and invariance)の一定のパターンを経験していなければならない。

まだ抽象的だが、以下のような具体例も紹介されている。

たとえば、医学生が心音の違いを聞き分けられるようになるには、多様な患者の心音を聴かねばならない。あるワインの味について何か気の利いたことを言うには、多様なワインのテイスティングをしたことがなければならないのだ。

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そして、僕は以下の記述を頼りにフォーカスを絞ってみた。

バリエーション理論は、人が物事を新しい味方で見られるようになることに関する理論だが、もちろん、他にも重要な学習形態が存在する。(中略)だが、ここでわれわれが関心を向けるのは、もっぱら、周りの世界の重要な側面を見る見方を変えるという類の学習である。

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このモチベーションの下に、「概念や、問題や状況についての本質的特徴」を「識別」することの探究が関心事となっている。この識別をするとは、物事の違いを見分けることでもあるが、そのとき、バリエーションは、複数の事例を互いに比較できるように、かつ同時に、経験される必要がある。

学習対象の分類

こうした観点に立つとき、バリエーション理論は「学習対象」をより細かく分類している。

・直接的な学習対象(direct object of learning)

「たとえば、2次方程式、光合成、統治形態、最も普及している宗教など」、学習内容そのもののこと。

・間接的な学習対象(indirect object of learning)

教員は、「2次方程式を解くことができる」のように、直接的な学習対象をどのように扱えるようになるか、つまり「を学習するか」だけでなく、「いかに学習するか」までを含めて学習の成果として期待している。

・意図された学習対象(intended object of learning)

教員が期待する学習内容全体のこと。言い換えればこれは「学習目標」のことである。

・実演された学習対象(enacted object of learning)

これは「学習空間」に言い換えることができる。意図された学習対象を実際に学習するためには、教育の実践においてそれが具体化されなければならない。つまり、教室という状況において、講義などの学習活動のなかで学習対象がいかに提示されるのか、どのような位置づけとして扱われるのか、等によって学生が学習しうるものは変わる。このように、「どんな条件なら学習対象のどんな側面を学べるのか」を示すのが実演された学習対象ということになる。

・生きられた学習対象(lived object of learning)

教員が提供するものを、学生がどう受け取るかを把握することもまた重要である。意図し、実演したとしても、学生がそれらからどのように本質的な側面を識別するかによって、彼らが受け取るものは変わる。それはつまるところ「学習成果」と言い換えることができる。

 

読解に非常に苦労したが、僕の理解では、要は学習目標をきちんと持つことは当たり前に重要だとして、それを学生が受け取り理解するためには相応の学習の場のデザインが必要であり、かつそこまで配慮したとしていかに受け取るか(何が生き残って学生に受け取られるのか)は学生によって変わるため、その受け取るメカニズムもまた理論的に整理することでより効果的な教授方法に近づける、というふうに理解した。

バリエーション理論のもたらすもの

学習対象というものをこれだけ細かく分類すると、唯一のベストな学習(授業)形態などありえない、ということが明らかに言える。適切な方法は学習内容や目的に応じて変わる、ということだ。著者は1998年以来、香港の学校を舞台にこれを実証する研究を行ってきた。

意図された学習対象は同じだが学習価値は異なる複数の授業を比較すると、学習結果のバリエーションは、内容や科目の教授学的次元において提供されたバリエーションの関数であることが明らかになった。われわれは、絶対的な意味で、ある授業が他の授業よりよいと言うことはできないが、特定の学習目的にとって、一方が他方よりよいリソースになっていると言うことはできる。

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「関数」という表現を”比例”と言い換えると、「提供されたバリエーションと学習結果のバリエーションは比例する」というふうに理解できる。こう捉えてよいとすれば、例として挙げられている医学教育のある授業において、常に比較対象がある形で提示する方法とそうでない方法をとった場合、前者の方が成績が良かった、という研究結果があるという。

次の例も面白い。会計学の分野で、3人の教員が同じ内容をそれぞれ違う学生に講義をするというシチュエーションがあった。取り扱うトピックと到達目標(ここでは講義後に学生に向ける問い)は3人とも共通で、授業計画も一緒に立てている。にも関わらず、3人のトピックの扱い方、講義の進め方に大きな差異が見られ、その差異は学生の理解・把握の仕方にも反映されていた、という。ここから得られる示唆について少し長いが引用する。

この事例から、学生の学習にとって決定的に重要なのは、ティーチングをどのように(講義、プロジェクトワーク、PBLなどのどの形で)組織化するかということだけではなく、内容をどのように組織化するかである、と論じることができる。しかしながら、ポイントは、組織化(バリエーションと不変のパターン)のある特定の形態が一般的に他の形態よりすぐれているということではなく、また、より多くのバリエーションの方がより少ないバリエーションよりすぐれているということでもない。ポイントは、何がバリエーションであり、何が不変なのかということが、内容をどのように組織化するかについての最も重要な側面だということなのであり、内容をどのように組織化するかが学習を生起させたりさせなかったりする条件を決定するということなのである。

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もう1つ、学習者自身も変数に含まれることを忘れてはいけない。すなわち、学習者がある学習対象の本質的側面を識別できるようになったというとき、それは彼が過去に学んだことに補完されている可能性があるということも考慮に入れるべきだ。

「学習を可能にする」ために

第1に、あらゆる学習対象には、学生を導き入れるべき必要なバリエーションのパターンがあるということ、第2に、バリエーションの適切なパターンは個々のケースに置いて見出されるということである。

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このことから、教員どうしが学習内容や授業のあり方、あるいはトピックの扱い方についてお互いに把握し共有しあい、より効果的なバリエーションのパターンを見出すことの有益さが示される。それは日本において「授業研究」と呼ばれるものであるが、本書ではさらに教員の経験に依らず特定の理論に基づいて改善のサイクルを回し、かつ得られた知見を継続的な研究に生かす「学習研究(learning study)」という方法が提案されている。いずれにせよ、教員同士の議論を引き起こすことが、授業実践のクオリティを高めることになる。

感想

バリエーション理論は未だ発展途上ということだが、これまでの教科指導の経験を通じて直感的に思っていたことと重なる知見がいくつかある。「理論」という立場からそうした直感的、経験的な記述を説明するためなのか、抽象度の高い印象がぬぐえないままであった。まとめというには長すぎるのも、僕の理解不足の表れである。

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