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ディープ・アクティブラーニングのメモ:第5章・理解か、暗記か?

カテゴリ:読書の記録


本書は第5章から「第Ⅱ部・様々なフィールドでの試み」に入る。ディープなアクティブラーニングを追究する実践事例や様々な工夫が紹介されている。この章では初等物理学の授業で著者が実際に採用している「ピア・インストラクション」という手法がテーマだ。

ピア・インストラクションとは

ピア・インストラクションは以下のような流れで構成される授業手法である。

1.重要な単一のテーマ・トピック(キーコンセプト)に関する講義
2.概念的課題(コンセプテスト)の提示
3.課題について個人思考
4.課題について近くの学生とディスカッション
5.課題の回答の解説

この1~5は1サイクルが約15分というごく短時間に収まる。それくらいにトピックを絞り、このサイクルを講義時間中に何度か回す。2~4のコンセプテストの結果、学生の理解度が高まっていないと感じたときは5の部分にもう少し時間をかける。学生の理解に沿った柔軟な授業運営が前提になっており、著者はそのために扱うトピックも厳選し、振り返り用の時間をシラバスに組み込んでいるそうだ。

著者の問題意識は、初等物理学の授業が、概念の理解よりも公式の暗記やそれに基づく数理計算に偏っていることにあった。それは、教材の提示のされ方が一方向的で、学生の批判的な思考を養う前提でつくられていないことも大きく関与している。これは(ディープ・)アクティブラーニング導入のモチベーションとほぼ一致するし、何よりこれまで学校教育を受けてきた人の多くが実感するところだと思う。「教授パラダイム」の限界はすでに来ているのかもしれない。

ピア・インストラクションのポイント

この手法のポイントは、第一に良質なコンセプテストを十分に準備すること。数理計算のみでは解決されないような概念的な問題が望ましい。コンセプテストは多肢選択問題として出題される。例えば、以下のようなものだ。

水が縁いっぱいまで入っているバスタブがあるとしよう。その横にそれとまったく同じバスタブがあり、やはり水が縁いっぱいまで入っているが、そちらには戦艦模型が浮かんでいる。どちらのバスタブの方が重いだろうか。
1.最初のバスタブ
2.戦艦模型が浮かんでいるバスタブ
3.どちらも同じ

ディープ・アクティブラーニング

僕も高校のときは物理選択だったし、大学でも力学の授業を少しだけ受けたことがあるが、こういったシンプルな問題が物理の試験で問われた記憶はほとんどない。多肢選択式であっても、だいたいは公式の暗記ができているかの確認だった。この出題方式であれば自分の考えを持った上でそれを他者に説明するということがやりやすいと思う。

もう1つは「リーディング・アサインメント」、つまり事前にテキストやノートを読むよう学生に求めること。いわゆる「予習」だ。これは高校時代に僕もやっていたし、できるならばこの方が学習の効率は上がるはずだ。そういう意味で、「反転学習」まではいかないが、教員と他の生徒がいる「授業」という場の価値を重視したスタンスというふうに捉えることもできるのではないか。

感想

本書を読み進めるたびに、学校教育の「当たり前」として存在していた様々な課題に素朴な疑問を持ち、正面から真摯に取り組む実践者が増えてきているのだなと感じる。学生の成長を目的とすれば、ごくごく自然な方向性なのかもしれない。

また、このピア・インストラクションは第4章の「協同学習」を地でいっていることも分かる。本書の冒頭にあるように、「理論と実践を結び付け」ていく構成が、理解をより深める手がかりとなる。非常に読みごたえがある。引き続き、読み進めていきたい。


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