Top Page » 読書の記録 » This Page

【書評】「里山資本主義」は日本の田舎への最後通告か

カテゴリ:読書の記録


話題の本書。
いまさら読んでみましたが、どことなく後味の悪さがありました。

いや、希望は確かにあって、実際わくわくする話ばかりでした。
しかし我に返ると、本書からはもっと深刻なメッセージが読み取れるのではないかと思ったのです。

「里山資本主義」という名の「資本主義」

まず第一に、「里山資本主義」という言葉。

現在の行き過ぎたマッチョさを批判する「マネー資本主義」のカウンターとしての「里山資本主義」。
しかし、このタームもまた「資本主義」の一形態であるということを忘れてはいけません。

つまり、「マネー資本主義」であろうが「里山資本主義」であろうが、
現代社会の根底にあるのは資本主義だという点においては変わりないということ。

本書を読んだ方なら誰でも気づくことではありますが、
「資本主義」の原理を”正しく”扱う作法を「里山資本主義」と換言していると言っていいでしょう。

「里山資本主義」の神髄

「誰かが『廃棄物をうまくリサイクルしてどうのこうの』と言ったら、いつも叱りあっていた。『廃棄物じゃない、副産物だ』って。全部価値のあるものだって、話し合ったものです。それでも当時はまだ、木くずは副産物だという感覚だったけど、今はさらに進んで、副産物ですらなくて、全部製品なんだと。まるごと木を使おうと。まるごと木を使わないと地域は生き残れないと考えたんです」

里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く

こういった発想の中に「里山資本主義」の神髄が隠されています。
つまり、「無価値」であったものを「価値」に変えよう、と。
価値基準を更新し、各ステークホルダーの利益となるモデルを作り出そうと。

シンプルに言えば、これぞまさにイノベーションです。
字面にするとわかりきったことに聞こえますが、改めて「イノベーション」の裾野の広さを考えさせられます。
旧来の考え方による「無価値」というレッテルに疑問を持てるか。
一見価値がないと見えても、そこから「市場」に評価されるモノ、小さくても確かな循環を作り出せるモノを生み出せるか。

逆転の発想で捉えれば、役に立たないと思っていたものも宝物となり、何もないと思っていた地域は、宝物があふれる場所となる。

里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く

その点、地域にはイノベーションの種がごろごろ転がっていると見ることができます。
裏を返せば、「無価値」は放置しておけばいつまでたっても「無価値」のままである、ということでもあるのですが。

岩井克人の言葉を借りるならば、イノベーションとは「差異」を生み出す手法です。
これまでの価値体系とは異なる価値体系を生み出し、その二者間の差異を源泉に「利潤」が生まれる。
「里山資本主義」は資本主義の原理原則に従え、というメッセージに思えてなりません。

「里山資本主義」が突きつける最後通告

今、「資本主義の原理原則に従え」とわざわざ言わなければならない理由は何か。
それは単純に日本のいたるところで資本主義が正しく浸透していなかったからでしょう。
「マネー資本主義」のような単一システムへの過剰な信仰が跋扈しているのですから。

日本の田舎の問題はきちんと資本主義が定着していないことだ。 | makilog

残念ながら日本の多くの田舎は単一システムに盲目的に追従するのみです。
たとえば、価格変動の大きいエネルギー資源にのみ依存しているとか。

そうしてみると、本書は日本に対して平然と最後通告を突きつけている印象があります。
(冒頭で記した「後味の悪さ」はここに起因しているのでしょう)

当然ながらイノベーションは簡単なものではありません。
「これまでと異なる価値体系を構築できなければ、日本の田舎に未来はない」
もし本書の裏主張がここにあるとすれば、実に冷酷と言うべきでしょう。

それでも、「里山資本主義」は希望である

里山資本主義は、経済的な意味合いでも、「地域」が復権しようとする時代の象徴と言ってもいい。大都市につながれ、吸い取られる対象としての「地域」と決別し、地域内で完結できるものは完結させようという運動が、里山資本主義である。

里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く

そうは言っても「里山資本主義」から学ぶべきことはたくさんあります。
依存から自立へ。「グローバルの一部分」に過ぎなかった田舎から異なる価値体系を持つ「ローカル」な田舎へ。
その道標になりえるのが本書だと考えます。

森林資源の管理と活用の先進地であるオーストリアの取り組みはその一つ。

「(中略)ところが、今日ではエネルギー資源はあまりありませんから、この星にある自然が与えてくれるもので私たちは生活しなければなりません。この思考の大転換こそが真のレボリューション(革命)です。そうした革命に木材産業はうってつけなのです。森林は管理し育てれば無尽蔵にある資源だからです。
その結果、経済は必然的に国家中心から地域中心になっていきます。製材業はたいていファミリー企業です。原料の調達も、せいぜい二〇〇キロ~三〇〇キロ県内でまかなえます。生産には多くの人手がかかります。ようするに、木材は、投資は少なくてすむ一方、地域に多くの雇用が発生する、経済的にもとても優れた資源なのです」

里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く

これまでの常識で考えれば価値の低かった木材資源を、異なる視点でとらえ直す。
グローバル経済への依存を断ち切り、自立の道を目指す。

本書で紹介されているような事例が少なくない数あることがすでに希望でもあります。
日本の田舎が人口減少という未来から目をそらさず、これまでの常識に囚われないそれぞれの未来を描く。
前例によって狭められた可能性を自ら開き、資本主義社会に参入していく。
その道標はすでに示されました。後はフォローするか否か。それだけです。


関連する記事