Category Archive: 読書の記録

「きょうしつのつくり方」を読んで

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不思議な絵本だ。

子どもたちが自分たちで教室をつくりあげていく。
その様子がカラフルな水彩画で描かれている。

特徴的なのは、文字がないことだ。
「これは、○○をしているところです」といった解説は、
本編の後にまとめられている。

例えば、二、三人で一緒に読み進めながら、
どんな印象を持ったか話し合うのに向いていそうだ。

終盤には、鼎談が記載されている。
原案の学芸大准教授の岩瀬直樹氏、
プロジェクトアドベンチャージャパンの寺中祥吾氏、

」等の苫野一徳氏の3名。

気になる箇所がいくつかあった。

苫野・・・「みんなが同じでなければならない」「同じことをしなければならない」という、学校でよく見られる凝集性には、そこでひどく苦しい思いをしてしまう子どもたちが必ず存在してしまうという、深刻な問題があると思っています。
 でも、自発的な遊びを楽しんでいる時に感じるまとまり感は、むしろ助け合いや学び合いの土台になるんですね。
岩瀬・・・そのギュッとした感じをあまり味わったことがないまま、個別化を大事にしようと思うと、バラバラしたままになってしまいます。

きょうしつのつくり方

思い当たる節が多々ある。

岩瀬・・・凝集性の違和感みたいなことがぐっと来たときは、大きい変化を自分の中に感じました。「自分自身は割とそういう場は嫌なのに、先生である私はやれてしまう」みたいなところがつながったときに、自分の中に一つ核ができたという感じはあります。

きょうしつのつくり方

『先生である私はやれてしまう』。
それは公立塾のスタッフである僕も同様だと感じた。

 

本書は鼎談こそ多少抽象度が高いが、
全体としては子どもが読んでも差し支えない、と思う。
コミュニケーションのツールとして活用するとよいかもしれない。

こういう本もあるらしい↓

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今さらの「社会で子供を育てる」の簡潔な読後メモ

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借り物なので、気になったところをここに簡潔にまとめる。

支援の提供者から利用者に近づいていくこと、どうすればその人たちに直接会えるか、頭を柔軟にして真剣に考えること、これがトロントで成功している支援に共通したポイントだったと思います。

社会で子どもを育てる―子育て支援都市トロントの発想

トロントの子育て支援の充実ぶりもさることながら、
やはり気になるのは「どうすれば充実させられるのか」だ。
端的にさらりと書かれているのが、かえって目を引く。

著者が訳した「実践コミュニティワーク」が
まさに具現化されていると言っていい。

現場へ足を運び、そこにいる人たちの声を聴く。
いや、声を聴くだけじゃダメで、その人たちと関わり、
信頼を一つ一つ積み上げていくという先にしか、
地に足の着いた実践は為しえないということなのだろう。

この一文に出会えただけでも、本書を手に取る価値はあった。

 

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良質な問いを追及するアクションラーニングについてのメモ

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小さな組織の多忙感について」という記事にも書いたが、
海士町の多くの組織が中小企業規模であり、
マンパワーで基礎を築き上げていく零細期から
次の段階に向けての課題に直面しているケースが多いように思う。

ぼんやりとした課題意識から出発し、
組織を越えてお互いの問題を共有するような場として
有志で勉強会を開こう、というのが最近の企て。

その勉強会のネタとして冒頭の本に代表される
「アクションラーニング(以下、AL)」を導入しようと考えている。

アクションラーニングは、グループで現実の問題に対処し、その解決策を立案・実施していく過程で生じる、実際の行動とそのリフレクション(振り返り)を通じて、個人、そしてグループ・組織の学習する力を養成するチーム学習法です

アクションラーニングとは | NPO法人 日本アクションラーニング協会

実践 アクションラーニング入門」は、平易ではあるものの
生真面目さが少しとっつきにくいところであった。
ALの本質を追及するにはうってつけだと思うが、
もう少しライトに全体像を把握する上では別の書籍を参照した。

以下ではこの「質問会議」を引用しつつ、
整理のためにALのポイントとなりそうな部分をまとめておく。

なお、僕はこれまでに二度ほどALを体験している。
実体験に基づくので多少偏ったまとめになるかもしれない。

アクションラーニングの概要

ALとはざっくりと言えば会議形式の一つである。
その大きな特徴は三つ挙げられるだろう。

1.「質問」と「回答」によってのみ情報がやり取りされること。
2.チームとしての学習にコミットしたALコーチの存在。
3.参加者が直面する現実の課題解決を取り扱うこと。

「質問」と「回答」のみで構成されるという点が特に面白い。
「問いを立てるのがリーダー、その問いに答えるのがマネージャー」
などという言葉もあるが、ALでは徹底的に「質問」を重視する。

様々な問題解決の指南書で指摘されているように、
問題発見とその明確化は問題解決の1stステップと言われている。
そして、良質な問いは問題の輪郭を明瞭にし、
問題の本質をつかむ補助線となるという信念がALにはある。

また、単に組織の問題解決を促すのではなく、
ALの過程においては参加者の学習と成長も主な関心事となる。
問題解決の中で問題解決体質を植え付けるといえばよいだろうか。
「成長」にコミットしたポジションを1人配置するという徹底ぶりである。

各々が、現場で抱える実際の問題を持ち寄り、
その問題を解決するための「質問」と「回答」を繰り返す。
そうして問題の精緻化と解決のための行動計画を策定する。
ALコーチはこのプロセスの中でメンバーの学習にコミットする。
これがALの基本的な構成となる。

アクションラーニングが求められる背景

そもそも、このような会議体がなぜ必要とされるのだろうか。

ある大手企業の方がこんなことを言っていました。
「20年前の上司なら、部下の疑問・質問には100%の回答をもって導いてくれた。課長であれ、部長であれ、何をたずねてもはっきりとした指示を出してくれたし、どうすればいいか迷ったときには、いつも頼れる人だった」
この言葉は、「現在はそうではない」ことを示唆しています。

質問会議 なぜ質問だけの会議で生産性が上がるのか?

変化が激しく、問題が複雑化しているのだから、
既に答えを知っている人などいなくなってしまった。

いま必要なリーダーシップとは、解決策をチームメンバーから引き出すことのできる力です。リーダーは自ら答えをもたなくとも、メンバーが答えを発見できるような場や雰囲気をつくり出す必要があります。

質問会議 なぜ質問だけの会議で生産性が上がるのか?

ALという手法は、良質な問いを立て、
それによってチーム活動を活性化し、問題解決を促す。
問題発見・問題解決のサイクルを
自発的に回す組織づくりにうってつけだと言う。

なぜ「質問」なのか、なぜ「質問会議」なのか

改めて、「質問」の意義とは何か。
「質問は思考を促す」というのがその端的な理由になる。
質問というインプットに対し、何らかのアウトプットを出そうとする。
逆に「意見」は聞く側を思考停止にさせる恐れがある。

この質問を会議体に持ち込むことの利点は、
誰かの質問が、質問された相手だけでなく、
その周りにいる人の思考も促すという点にある。

「自問自答」は思考が一人で閉じてしまうが、
「他問他答」は、「I think」を「We think」にする。

これはチームの関係性向上にも役立つ。
上司が会議を支配し、喋り続ける場では誰も口を出せない。
一方的な指示では背景の理解まで至らない。
質問とその回答にフォーカスすることで平等な場が生まれ、
円滑で安心できるコミュニケーションが可能となる。

ダニエル・キム氏が提唱する「成功の循環」がある。

関係性の質→思考の質→行動の質→結果の質

ALでは前の二つに重きを置くことで、
チームとして結果を出し、関係性がさらに向上する、
そうしたサイクルを生み出す仕掛けと言える。

特に視点を変える質問は有効だ。
これを「質問会議」では「共鳴質問」と呼んでいる。

Aさんの視点を変える質問
 →Bさんは返答を考える
 →他のメンバーがBさんと同様に返答を考える
 →新しい視点を受けてさらに異なる視点の質問を考える

このようにチームとしての働きを促進し、
問題発見・問題解決の力を育むのが質問というわけだ。

学習を促進するALコーチの役割

ALコーチの役割についてもごく簡単に触れたい。
一言で言えば「質問会議」の学習効果を司るのがALコーチだ。

ALコーチに求められるのは、チームが信頼を基盤に、円滑なコミュニケーションとチームワークをはかれる場や雰囲気をつくる知恵を備えていることです。自らの問題の解決策を提示するのではなく、チームが一緒に考え、行動することを促進し、メンバーみんなでそれができる場をつくることが役割です。

質問会議 なぜ質問だけの会議で生産性が上がるのか?

ALコーチは会議の問題解決に介入するという形でなく、
メンバーにリフレクション(内省、振り返り)を促し、
気づきを生む機会を与える、という形で役割を果たす。

やり取りが閉塞的であるとか、思考に偏りが見られるとか、
セッションの中でメンバーの学びと成長に問題を感じたとき、
ALコーチはいつでもセッションを中断させ、
メンバーにリフレクションを求める権利をもつ。

問題解決でなく、チームの成長にコミットする。
そうした役割が一人いることはALの大きな特徴だ。

ALコーチはある程度の専門性が求められるが、
メンバーが順に回していくのでもよい、と言う。
その経験自体がメンバーの学習の契機になる。

 

終わりに

ALの概要を本当に簡単にだがまとめてみた。

具体的な実践の方法については、
海士町での勉強会の企画書という形で紹介してみたい。

 

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