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海士町@隠岐の注目すべき取り組み:産業編

カテゴリ:世の中の事


今回は海士町の産業分野の取り組みをご紹介します。
(「教育」「産業」「まちづくり」の3部構成の予定です)

海士町@隠岐の注目すべき取り組み:教育編
海士町@隠岐の注目すべき取り組み:まちづくり編

※紙面の都合上、独断と偏見で一部の取り組みのみ紹介させていただいております。
※記事の情報は2013/3/9現在

1.CAS(Cells Alive System)の導入

島根県沖に位置する隠岐諸島は、北からのリマン海流(寒流)、南からの対馬海流(暖流)がぶつかる海域にあります。
海洋資源は非常に豊富で、海士町も昔から漁業が盛んなところでした。
その歴史は古く、平城京の時代からあわびなどの乾物を朝廷に献上していた記録が残っているほど。

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陸から海をながめるだけで魚がうじゃうじゃ

しかし、近年は海士の漁業も衰退の兆しを見せ始めていました。
その大きな要因は、地理的なハンデにあります。
海産物の卸先は本土ですが、海士から本土まで海産物を輸送するだけでも時間とコストが大きくかかります。
鮮度でも価格でも本土の産品に見劣りするばかりか、輸入品にも押され、島の漁業者の手取りも徐々に下がっていきました。

漁業は町を支える一大産業であり、その衰退は町の衰退に直結します。
海士町ならではの付加価値をつけ、漁業者の収入をあげることが急務となっていました。

そこで導入されたのが「CAS(Cells Alive system)」と呼ばれる冷凍技術です。
もともとは臓器保存などの医療目的で開発されたもので、細胞を壊さずに冷凍できるのがその特徴です。

通常の冷凍技術では解凍時にドリップ現象が起こりますが、CAS冷凍した食品ではそれが起こりません。
島のお寿司屋さんが「CAS冷凍したイカは取れたてのイカと何も変わらない」と語るほど、食味を損なわず冷凍することができるのです。

CASを導入することで町の漁業が抱える課題はどう改善されるのでしょうか。

「旬をずらして出荷することで価格競争から抜け出せる」

CAS冷凍した海産物は長期保存が可能ですから、わざわざ流通量の多い旬の時期に出荷する必要がなくなります。
流通量が多いということは、価格競争に巻き込まれやすいということです。
逆に、年間を通じて出荷できることで売値は安定し、他の海産物にはない価格競争力を持つことが出来ます。

実際、CASによる加工・販売を手がける第三セクター「ふるさと海士」では、売値の安定を図ることで島の漁師さんからある程度高い値段で海産物を仕入れることが出来ています。
CASの存在が漁師さんの所得向上の一助になっているようです。

このCASですが、導入には多額のコストがかかった、と聞いています。
つまり、CAS導入はある種の「賭け」の面もあったのです。
このあたり、詳しくは町長の本をお読みいただければと思います。

なお、CAS製品は海士町内でもお召し上がりいただけます。
港のレストラン「船渡来流亭(せんとらるてい)」のアジフライ定食、カキフライ定食、白いかの刺身などほとんどがCAS冷凍です。
冷凍と言われても信じられないくらいおいしいので、海士町にご来島の際はぜひ。
CAS製品は通信販売も行っております

2.隠岐牛

海士町の玄関口・菱浦港の駐車場と道路を挟んで向かい側のあたり。
ランチタイムや夕食時に木造の建物の横を通ると、なんともいえず食欲をそそる匂いが漂ってきます。

ここは、海士町内で隠岐牛の焼肉・しゃぶしゃぶ・すき焼きが食べられる「隠岐牛店」。
隠岐牛は東京の食肉市場で松坂牛と同等のA5ランクの評価を受けるほどのブランド牛です。
都内でも提供されているお店がいくつかありますが、2万円以上は覚悟するほどの高級品。
「隠岐牛店」ではドリンク込みでも5千円~1万円ほどで頂けるので、町民も祝い事や慰労会でよく利用します。

隠岐牛・しゃぶしゃぶ用
隠岐牛のしゃぶしゃぶは絶品

驚くべきことに、この隠岐牛の飼育・出荷をしているのは、町の建設業者なのです。

山内現町長が町長選に初出馬した際、公共事業を削減する方針を打ち出しました。
普通、田舎でそんなことを言えば大きな票を持っている地元の建設業者を敵に回すことになります。
ところが、当時の「飯古建設」の社長は違いました。

「町長、あなたの言うことには賛成だ。われわれも公共事業への依存から脱却しなければならない」

そうして「飯古建設」は建設業から畜産業という異業種へ参入し、隠岐牛のブランド化を進めるに至ったのです。

隠岐牛は島中放し飼い、といった感じで、たまに道路のど真ん中を占領されるときもあります。
海からのミネラル分を豊富に含んだ牧草を食べてのびのびと育った隠岐牛の肉は、心地よい甘みがあり、絶品です。

現時点では十分な出荷量が確保できないため、いまだ「幻」となっている隠岐牛。
海士町へご来島の際はぜひご賞味ください。

3.いわがき「春香」

僕が東京に居た頃、とあるイベントで生のいわがきを食べる機会がありました。
もともと生のかきはその生臭さが苦手で、カキフライならまあ食べられるというくらい。
ところが、僕がそこで食べた岩がきは全く臭みがなく、新鮮な海の香りが口の中いっぱいにひろがる美味しさ。

「え!?本当にこれが冷凍!?」

と驚愕したことを覚えています。

何を隠そう、僕がそこで食したのは、海士町のブランドいわがき「春香」をCAS冷凍したものだったんです。

このいわがき「春香」はトレーサビリティの担保など厳格な品質管理の下、海士町で養殖されているもの
S~LLサイズまであり、LLサイズともなるとかなり大粒ですが、味はどれも濃厚で豊かな海の香りを感じられます。

このいわがき「春香」の特徴は、その名のとおり3月~5月の春から初夏が旬であること。
通常のいわがきは5月~8月の夏季が旬なので、CASと同様、競争優位性が働きます。

しかしこのいわがき「春香」の養殖、はじめから順風満帆というわけではなかったそうです。
現在のブランドが確立するまでには数多くの失敗があった、と伺っています。
いわがき「春香」は、生産者が覚悟を持って積み重ねてきた試行錯誤の賜物であり、だからこそ味と品質は格別なのですね。

現在では東京でも取り扱いが増えており、都内のオイスターバーでも高級品として提供されています。
また通販でもご購入いただけますので、ぜひお試しください。
※旬をはずすと食べられない可能性大です。今年の出荷は始まっているそうなので、お見逃しなく!

産業の影に「人」あり

ここに紹介したのはほんの一部ですが、海士町の産業の取り組みに共通するのは「人」です。
工場をつくればいい、牧場を作ればいい、養殖場を作ればいい…。
そんな単純な発想では、「離島」というハンデを覆すブランド化を実現するのは無理だったはずです。

覚悟を決めて挑戦し、諦めず粘りづよく食らいついていった「人」がいるからこそ、今がある。

そのありがたみを感じるからこそ、「いただきます」の言葉の重みも増すというものです。

※海士町長が書いた書籍もありますので、興味のある方はそちらもぜひ。


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海士町@隠岐の注目すべき取り組み:教育編

カテゴリ:世の中の事


前職の同期から「海士町のことをブログで紹介してよ」とリクエストがあったので。

しがないIターンでしかない僕なんかが偉そうに紹介してよいものかと心配もありますが、
2年半の海士町での暮らしを通じて見知ったことをここに記録したいと思います。

今回は海士町の教育分野の取り組みから。
(「教育」「産業」「まちづくり」の3部構成の予定です)

海士町@隠岐の注目すべき取り組み:産業編はこちら
海士町@隠岐の注目すべき取り組み:まちづくり編

※紙面の都合上、独断と偏見で一部の取り組みのみ紹介させていただいております。
※記事の情報は2013/3/7現在

1.高校魅力化

まず、僕が海士町で関わっているプロジェクトからご紹介しましょう。

海士町には隠岐島前地域(海士町、西ノ島町、知夫村)唯一の高校、「隠岐島前高校」があります。
現在は県立高校ですが、元々は地元の有志がたいへんな苦労をかけて分校を設置したのがはじまりでした。
それだけ地元の人の思いが込められた高校だった、というわけですね。

ところが、近年は少子化の影響で入学者が減り、一時は1学年28名にまで落ち込んでいます。
生徒数減に伴い教員数も削減され、教育環境としても本土の進学校や運動部の強豪校との落差が顕著になってきました。
島根県の規定では入学者数が21名を下回ると統廃合の対象になってしまいます。
地域内の子どもは減少の一途をたどっていますから、統廃合は目と鼻の先でした。

そこで立ち上がったのが「島前高校魅力化プロジェクト」です。

島前高校魅力化プロジェクト

「魅力化」という言葉には、「島前高校を魅力的な教育の場にしよう」という想いが込められています。
「存続させよう!」と声高にさけぶような高校には誰も来たくないですしね。

島内の子どもだけでなく、島外からも進学希望者が集まるくらい素晴らしい教育環境をつくる!

強い危機感から始まったこのプロジェクトは、県の管轄である島前高校と三町村の協力の下、着実に成果を出しています。
全国から進学希望者を募る「島留学制度」を導入し、平成24年度現在、島前高校の全生徒のうち3割強が東京、大阪など島外出身者で占められています。
平成23年度には志願者数が久々に定員をオーバー、平成24年度には僻地の高校では異例のクラス増を達成しました。
また、高校生が地域の魅力を生かした観光プランを競い合う「第一回観光甲子園」で文部科学大臣賞(グランプリ)平成23年度には「キャリア教育推進連携表彰」を受賞など、各方面で評価を得ています。

さらに本プロジェクトを通じて公設民営塾「隠岐國学習センター」が設置されました。
単なる学習塾・予備校とは異なり、高校の教員と定期的に打ち合わせを持つなど島前高校との連携を重視しているのが特徴です。
偏差値だけでなく社会で求められる力を伸ばすことも重視しており、「夢ゼミ」という特徴的な授業も実施しています。

隠岐島前高校の一連の取り組みは注目を集めており、全国からの視察が絶えません。
離島・中山間地域の学校は同様の課題を抱えているケースが多く、「島前高校魅力化プロジェクト」の取り組みは全国のモデルケースになる可能性を秘めているといえます。

2.子ども議会

海士町は町内の小中学校を対象にしたキャリア教育にも非常に熱心に取り組んでいます。
その中でも特徴的なのが「子ども議会」ではないでしょうか。

子ども議会は毎年1回開催され、町の小学生たちが町長はじめ町の重役に対し自分たちが考えたまちづくりのプランを提案していきます。
町長も「実際の議会より真剣になる」と冗談交じりで話すくらいに子どもたちの迫力はすごいもののようです。

実際のところ、子ども議会はそう珍しいものではなく、全国に事例があるようです。
しかし海士町の子ども議会のすごいところは、実際に子どもたちの提案がいくつか実現している点
大人が本気だから、子どもたちも本気で提案できるわけです。ここに海士町の凄みがあるように思います。

※実を言うと僕は傍聴したことがありません…。
町民の注目度が非常に高く、いつも傍聴席が満席になるからです。

3.島まるごと図書館構想

役場の裏手にある中央公民館に入ると、日当たりの良い木造の建築が目に入ります。
平成22年に開館したこの海士町中央図書館を中心に、島内の読書環境の向上を目指すのが「島まるごと図書館構想」です。

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こんな素敵なテラスも

もともと海士町には図書館がなかったそうですね。
さらに、海士町はそう大きくない島とはいえ島内の移動には車が不可欠です。
せっかく新しい図書館を建てたところで、子どもやお年寄りが通いにくいのでは意味がありません。

そこで海士町では、島内の各地区にある公民館や港、福祉施設など島内の所定の場所ならどこでも本を借りられる仕組みを導入しました。
町内の保育園、小中学校、高校の図書スペースと連携した環境整備も進められています。

本の読み聞かせや読書会など図書館を活用したイベントも積極的に開催されています。
僕は本を買って読む派なので図書の貸し出しを利用したことはありませんが、イベントにはたまに足を運んでいます。

中央図書館には海士町や隠岐に関連した資料、海士町の記事が掲載された雑誌など取り揃えられており、無料のカフェコーナーまであります。
無線LANも利用可能で、島外から来た人もうらやましがるほどの充実振りです。

海士町の「人づくり」に対する「本気」

他にも小中学生を対象にしたサバイバルキャンプ「アドベンチャーキャンプ」や一週間にわたる職業体験学習、「子どもダッシュ村」など、海士町では「人づくり」の分野で数多くの実践があります。
人口2300人弱の島でこれだけの実践をしていること自体、他地域から見れば驚異的に写るかもしれません。

「人」は地域の持続発展の核であり、教育は手を抜くことの出来ない分野です。
「まちづくり」や「地域活性化」で有名な海士町ですが、海士町の本当の”強さ”は教育に対する並々ならぬ情熱にこそ現れていると思います。

大人が変われば子どもが変わる。子どもが変われば未来が変わる。

海士町の大人たちは、子どもたちのために、地域の未来のために、今日も本気で「人づくり」に励んでいるのです。
(なんかえらそうな書き方ですいません…!)

※海士町長が書いた書籍もありますので、興味のある方はそちらもぜひ。


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「世間は狭い」という経験を享受できる人たちのこと

カテゴリ:世の中の事


“What a small world!”

先日、職場の同僚のお知り合いが海士に来島され、夕食を共にする機会がありました。
彼とは初対面だったのですが、よくよく話を聞いてみると、共通の知り合いがいたことが判明。
「世間は狭いな」と思った次第です。

「世間は狭い」という感覚は、海士町に来てからというもの、幾度も経験しています。
これは人と人とのつながり(ネットワーク)の中で、海士町に関心を示す人たち同士の距離が、自覚される以上に近いことを示します。

この「世間は狭い」現象は、誰にでも起こるものなのでしょうか。
必ずしもそうとは言えないだろう、というところからこの記事を書き始めてみます。

「世間は狭い」の構造

直感的に、「世間は狭い」とより多く感じるには、より多くの友人・知人を持てばよいはずです。
小中高大、あるいは会社で知り合った人とすべてFBフレンドになれば、とにかく数は確保できるはずです。

ところが、僕の「世間は狭い」経験の多くは、僕の小中高大のつながりと関係のないところでもたらされたものでした。
「世間は狭い」経験は、僕のこれまでの「所属」(プロフィール)とは無関係に発生してきたのです。

「世間は狭い」経験を僕にもたらしたもの。それは僕自身の「関心」であった、と考えます。
思えば海士町に来たのもこの「関心」(とそれに伴うつながり)の賜物でした。
直接のきっかけをもたらしてくれたのは高校・大学の同級生でしたが、今でも交流を持つ数少ない同級生の一人でもあります。
彼との親交は単なる「級友」の立場でなく、お互いの関心への共感がありました。
履歴書には書けないところでのつながりが、”履歴書の続き”をもたらしてくれたとも言えます。

そして、そのような「関心」はますます僕の世界を狭く(つながりを広く)しています。
海士町に移住するまで会ったこともない人と、共通の知人を見つけることもそう珍しくありません。
これは海士町に魅力を感じるようなある種の人々の「関心」が重なった結果です。

一方、つながりの母数を「所属」に限定した場合、同じ「関心」を持つ人との出会いも限定的なものになります。
ある「関心」を契機にした「世間は狭い」の感動と出会うには、「所属」の境界を越える必要があるのです。

「世間は狭い」の感動は誰のもの?

「関心」によって形成されるコミュニティの構成員はどのような人たちか?
当然ながら、自ら何らかの「関心」を持ち、かつ「関心」を発信できることの2点を満たす必要があります。
そうしてはじめて、「所属」の境界を越えて「関心」をベースにしたコミュニティに属することが可能になります。

自ら「関心」を持つこと。自ら「関心」を発信できること。
この2つの行為はあらゆる人にとって可能なのでしょうか?

「世間は狭い」の感動を得られるかどうかは、個人のつながりの作り方に依ると言えます。

海士に移住するような人たちは、ほとんどの場合何らかの強い「関心」を持っています。
強い「関心」は本人を海士に引き寄せるだけではなく、海士町に「関心」を持ちうる人たちの横のつながりを形成しうるものです。
そうして形成されたネットワークは、ある個人の「関心」に反応して、同じネットワーク内の同種の「関心」を持つ人をつなぎます。

母数が「所属」に限定されたネットワークは、三つの点でこのネットワークに劣ります。
第一に、「関心」の供給源(その「関心」を持つ人」)の数が限られてしまう点。
第二に、ネットワーク形成が「所属」の組織構造に依存してしまう点。
第二に、「関心」の文脈が「所属」内における文脈に限定されがちである点。

個人的な経験を振り返ると、「世間は狭い」の感動は、「同じ都道府県の出身」という程度で喚起されるものではありません。
「え、こんなところでつながりのある人に出会えるなんて!」という、空間に対する意外性。
「え、思った以上に近い距離だったんだ!」という、つながりの距離に対する意外性。
地縁のない海士町では、「世間は狭い」の感動が起こる可能性は確率的には低いはずです。
しかし、一度偶然の出会いがもたらされれば、海士町という場所はこの二つの意外性を満たしやすい環境でもあります。

この海士町という特殊な環境で「関心」をベースにしたつながりを無視するわけにはいきません。
「世間は狭い」という経験から学ぶことができるのは、「これからのつながりのあり方」であるように思います。


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