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自分でも驚くほど成績が上がる勉強法【書評】

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一般的な高校生の指導をする上で避けて通れないのが「勉強法」の指導です。
試験勉強一つとっても、進学校の生徒とそうでない生徒では、「勉強法」に大きな開きがあります。

本人の実力(地頭)以上に、「やり方」の違いが差をつくっていることは、多くの人が認識していることと思います。
本書は若くして個別指導塾を立ち上げ、教育業界で注目される清水氏の3冊目の著書です。
1冊目、2冊目ともに読了しましたが、本書はより的を絞り、具体性がアップしている印象。

要点

本書は著者が読者に対して1時間目から5時間目まで授業を行う形式で書かれており、
そのため内容は大きく5つの内容に分類されます。

・授業 ・復習 ・暗記 ・継続 ・読書

この5つは一般的な高校生であれば誰しも何らかの課題を抱えているところですね。
ピンポイントに狙いを定め、具体的なノウハウも交えながら紹介されており、やる気のある生徒が読めば何らかの気づきを得られるのではないでしょうか。

個人的に気に入ったのは「継続」の話。
著者は冒頭に「モチベーション」の話を持ち出しますが、著者は「モチベーション」という言葉に懐疑的な立場をとります。

偉い人の言う「私がここまで来られたモチベーションというのは…」みたいなのは、どうもちょっぴり後付けっぽく聞こえるし、モチベーションに関して唯一いえることは「その人は成し遂げた結果、モチベーションがあった」ということだけだと思うのです。

自分でも驚くほど成績が上がる勉強法

モチベーションは続かなくて当たり前」という言葉は、もしかしたら多くの高校生を救うことができるかもしれません。
やる気をどうにかする方法を考えるのではなく、やる気がなくてもがんばれる仕組みを作る。
モチベーションを言い訳にしないことが、実は成績アップの重要なポイントになっているのです。

この認識が念頭にあるためか、本書のアドバイス全体が具体的で自己啓発色の薄いものになっています。
また引用文を見れば分かるとおり本文は砕けた言葉で書かれているので、読みやすくもあります。
分量もさほど多くないので、ある程度自立的に勉強できる生徒にはお勧めできる一冊です。

本書の限界

さて、著者の本も3冊読みましたが、今回で一つの限界が見えたように思います。
内容が具体的になった結果、既存の書籍と比較可能なポジションに下がってしまった印象があります。
その先にあるものはテクニックの勝負であって、そうなるとあまり面白いものではなくなっていきます。

個人的には著者の問題意識や目指すところに触れてみたいという気持ちがあります。
もう少し「そもそも論」がほしいところですが、生徒向けである以上、抽象度を上げにくいという制約があるのでしょう。
これは今後の著作に期待したところですね。

とはいえ、本書の効果・効能には一定の期待が持てます。
トンデモな受験テクニックを載せる書籍もある中で、本書の内容はどれも根拠のあるものです。
「やらねば!」と意欲が燃え上がってきた生徒の背中を押すことができるのではないでしょうか。

 

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一生学び続けなければいけない時代におけるフィンランドの教育

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ヘイノネン: どうすれば新しいことを学ぶモチベーションをもちつづけることができるのか。子どもはみな学ぶことに興味を示しています。その関心をどうやって一生の間、持続させるか。これはとても重要な出発点です。
つまり、新しいことを学習するのは人生のある時期だけ、というのではないのです。生涯を通じて学ぶのです。

オッリペッカ・ヘイノネン―「学力世界一」がもたらすもの

オッリペッカ・ヘイノネン氏は失業率20%に達する不況に直面していたフィンランドにおいて若干29歳で教育大臣に就任し、フィンランドの教育改革を推進してきた人物です。
この教育改革の結果、国際的な学習到達度調査であるPISAにおいて、2000年、2003年の調査でいずれも学力総合1位となり、フィンランドの教育の取り組みへの注目が一挙に集まったのでした。
「学びあい」などで有名な佐藤学・東大教授とヘイノネン氏とのインタビューをベースに、フィンランドの(主に学校)教育の特徴を紹介しているのが本書です。

フィンランドの学校教育におこった改革とは

ヘイノネン氏の学校教育改革について、本書では大きく次の2つが紹介されています。

・自治体、学校、教員の裁量を拡大すること
・国内のどの地域においても公教育の水準を同等にすること

一連の改革に至る以前に積み上げられた教育の資本というべきものがあったことも見逃せません。

ヘイノネン氏はインタビューを通じて、(日本の現行教育制度と同様の)中央集権的な教育制度が出来上がりつつあったこと、すでに質の高い教材が出回っていたことなどを上げています。
また、その根底には「教育機会の平等」というフィンランド人の伝統的な価値観があるようです。

中央政府が築き上げつつあった土台をベースにしつつ 、最低限の基準を残して国の指導要領を削減し、教育現場がそれぞれのニーズに合わせて自由に指導内容を決定できる仕組みをつくる。
教科書の検定も廃止し、教材の選定についても同様に現場の裁量を拡大する。

中央集権的な教育制度の限界が克服され、学び方の異なる生徒一人ひとりに対し現場の裁量で質の高い教育を行い、結果的に学力氏水準が押し上げられ、経済状況も好転しだした。

これがフィンランドの教育改革の大きなストーリーのようです。

学校教育だけに注目するのはフィンランドに申し訳ないと思いつつ

ここで、記事の冒頭の言葉をもう一度見直してみましょう。

「生涯を通じて学ぶ」

我々は学校を出ても一生学び続けなければならないとは、日本で働いている多くの人が実感しているところでしょう。
ヘイノネン氏の信念は、フィンランドの生涯教育制度に垣間見ることができます。

フィンランドの生涯教育は主に職業教育に該当する「Adult Education」と、日本の「生涯教育」に類似する、語学や趣味など教養を高める意図の強い「Liberal Adult Education」の二つに大きく分類することができます。
(参考※PDF:https://helda.helsinki.fi/bitstream/handle/10138/24211/gencho_10330.pdf?sequence=2
本書においてはヘイノネン氏が教育における図書館の重要性に言及していますが、詳細については大きく取り上げられていません。
また、成人教育についてもさらりと触れられる程度であり、フィンランドの成人教育の真髄に接近するには本書は十分ではありません。

その点で本書は片手落ちである、と僕は感じています。
「生涯を通じて学ぶ」を単なる格言で終わらせることなく、実現させようとするフィンランドの努力を伝えきれていないことが残念でなりません。

※ヘイノネン氏が成人教育分野で実施した具体的な政策については日本語の文献が見当たらないため、ヘイノネン氏の改革は学校教育が中心であったかもしれません。
本書はヘイノネン氏へのインタビューがメインであるため、致し方ない事情があったのかも。

※フィンランドの成人教育について書かれている本については、おそらくこれが最も幅広く、かつ詳細なものと思われます。
デザインもステキで、写真もふんだんに使用されており、文章量も十分です。
フィンランドの教育に興味のある方は、ぜひご一読を。

参考:「フィンランドで見つけた「学びのデザイン」」から学ぶために

まとめに代えて-印象に残った点

最後に、本書を読みながら印象に残った箇所を引用してこの記事は終わりとします。

フィンランドでは子どもの居住地から5キロ以内に学校を建設することを法律で定めている。3キロ以内の子どもはスクールバス、3キロ以上5キロ以内の子どもはタクシー(公費負担)で通学している。

オッリペッカ・ヘイノネン―「学力世界一」がもたらすもの

面白いのは、「子ども」が始点であるということ。
フィンランドは人口は530万人ほどですが、国土は日本と同程度であるため、必然的に学校の規模は小さくなります。

PISA2003の「数学リテラシー」の調査結果を見ても、6段階の学力レベルで(フィンランドの)最低レベルの生徒は1.5%であり、調査対象国の平均11.0%より著しく少ない割合を示していた(日本は4.7%)。

オッリペッカ・ヘイノネン―「学力世界一」がもたらすもの

フィンランドの”落ちこぼれ”の少なさに驚きますが、意外と日本も検討していますね。
PISAのランクを実際に見ればわかりますが、日本の学力は国際的には上位に入ります。

スクール・カウンセラーの主な仕事は、日本のような臨床心理のカウンセリングではなく、カリキュラムの履修の助言と学びの支援に当てられている。

オッリペッカ・ヘイノネン―「学力世界一」がもたらすもの

フィンランドの中学校、高校にはスクール・カウンセラーが配置されています。
位置づけや資格、求められる役割について、もう少し詳しく見てみたいところです。

ヘイノネン: 実際、全国レベルでスローダウンすることは競争力を高めるいちばんよい方法なのです。これまでわれわれはより速く走り、ほかのものよりも速く走ればいちばんになれると考えてきたからです。
わたしは、われわれはあまりに速く走りすぎたために競争力を失いつつある状況にあると思っています。現実的にどうすべきかはわかりませんが、わたしはこのことは、これからの教育制度が責任を負っていくべきことだと強く感じています。

オッリペッカ・ヘイノネン―「学力世界一」がもたらすもの

この言葉は”成長痛”に悲鳴を上げている日本人にとって、いいヒントになりそうな予感がします。
視点を逆転させてみることで、もう少し冷静に教育について語れる日本になれるかもしれません。

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「ヤノマミ」の営みに何を感じるのか

カテゴリ:読書の記録

アマゾンの奥地に住み続け、文明との接点をほぼ持たず、一万年以上独自の営みを続けているヤノマミ族。
彼らに密着し、長期にわたり彼らと生活を共にしながら取材を行ったNHKのディレクターによる一冊。

世界中を埋め尽くしつつある「文明」と真逆に位置する彼らのありのままの姿が、そのまま「問い」として跳ね返ってきます。
僕らの属する「文明」の基礎をなしているもの、僕らが「当たり前」と捉えているもの。
有形無形問わず、僕らが驚くほどの数の人工物に囲まれているという事実を突きつけられたとき、僕らは何を思い、感じるべきなのでしょうか。

「ヤノマミ」とは「人間」という意味

「文明」の影響をほとんど受けていない彼らの風習は、僕たちの「常識」というフィルターを通じて見た場合、共感しづらいものがほとんどです。
僕らの「文明」の中であれば到底理解できず、有無を言わさず重罪を課せられるであろうものも中にはあります。

しかし、読んでいても、不思議と彼らを「野蛮だ」と断定する気にはなりません。
おそらくこれはヤノマミをありのまま理解しようとした誠実な著者の功績によるものでしょう。
著者は「文明」をバックに彼らに迫るのではなく、一人の「人間」としてヤノマミに接触しました。
それは著者自身の身を危険にさらすリスクを伴いましたが、その姿勢が本書のクオリティを高めているように思います。
(まさに「郷に入っては郷に従え」 ですね)

「ヤノマミ」とは彼らの言葉で「人間」という意味。
本書に描かれる営みもまた、同じ「人間」によるものです。
彼らの営みは、「文明」の側に留まる僕らの「常識」に強制的に揺さぶりをかけてきます。

共感、違和感、畏敬の念、これまで築き上げた価値観との矛盾。
あらゆる情感が不規則に立ち現れ、戸惑いはますます大きくなり、その勢いは止むことを知りません。
次第に彼らの「常識」と僕らの「常識」の境界があいまいになり、僕らが正しいと思っていたことの輪郭がぼやけてきます。

読後、僕の内には自分たちの基礎をなすものたちへの疑念だけが残りました。

もしも感想を一言でまとめるとしたら、「圧倒」、これに尽きます。

ノンフィクション好きな方、おすすめです。
話題にもなった本ですので、ぜひ手にとって読んでみてください。きっと、あっという間に読み終わってしまうはずです。

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