Category Archive: 自分事

職場でアクションラーニングをやってみてわかったこと

カテゴリ:自分事

勉強会で細々と続けているアクションラーニング(AL)。
先日、職場で実践する機会をたまたま得た。

結果を先に述べると、非常に手応えを感じることができた。
問題発見の成果という意味でも、
ALという手法の理解という意味でも。

ALコーチという立場から気づいた点について
出来る限りの言語化を試みたい。

全員が参加する意義が発揮された

提供された問題はある学年が対象だった。
スタッフ毎に関わりの濃淡があるので、
現状の把握という意味ではそれぞれに差がある。
普段の会議ではそのために発言に偏りがあった。

ALの場では「全員参加」を強調することで、
一人ひとりの認識が異なっていい、という空気になり、
普段は関わりのないスタッフもプレーヤーになれた。

単に「プレーヤーになれた」に留まらず、
そうした踏み込みが場に新たな流れを生み出し、
また違う深まりがもたらされたのは大きい。

こうした実践の積み重ねによる気づきが
普段の業務中に反映されるとなお良いのだが。

振り返りを通じてセッションの質が向上し続けた

開始25分程度で一度振り返りを入れたが、
このタイミングで直前のセッションについて
内容・プロセス両方に対する各人の意見が共有された。
「実は僕もそう思っていて」という連鎖反応があり、
メンバーが自走し始める予兆を感じた。

そして、振り返り後に流れを断ち切る問いが生まれ、
そこから別の観点からの事象の掘り下げが起こり、
メンバー間の共有を促す秀逸な例えも「発明」され、
「We thinkとはこれか!」という瞬間を垣間見た。

特に印象的だったのが、
序盤からやり取りが問題提供者を離れた点について
振り返りで2人から言及があったこと。
そこから問題提供者が見ているものを共有しよう、
という流れに切り替わってからの深まり方だった。

あとは余談だが「窓を開けてよいか?」という声が
セッション中に出たことは、個人的によかったと思う。

ALコーチは何をしたのか?

今回、ALコーチである僕はどう関わったのか。

その前にまずは今回の参加者について。

・僕:男性、AL6回目、ALコーチ
・Aさん:男性、AL3回目
・Bさん:男性、AL2回目、問題提供者
・Cさん:男性、AL2回目
・Dさん:男性、AL2回目、最年少
・Eさん:男性、AL初めて
・Fさん:女性、AL2回目

僕の勉強会に参加したメンバーと
一昨年、昨年に職場で実施したALに参加したメンバーばかり。

初めての参加者がいたことと、
勉強会には参加していないスタッフがいたので、
セッションに入る前に改めてALのイントロを入れた。

イントロで意識して伝えたのは以下の3点。

・問題の再定義が最も重要であること
・全員が参加することで意義が生まれること
・堅く緊張した空気をつくらないようにすること

振り返りの際に気をつけたのは次の2点。

・テンポよく進めること
・フォローアップ質問を織り交ぜること

上記以外ではセッション中の良質な質問や
振り返りの際に起こったことをメモする程度だった。

ここで結論を述べれば、特段ALコーチの影響で
問題解決や学習が促進された、という印象はない。
参加者の理解に助けられながら、
振り返りの場を有効に活用できたということだろう。

そういう意味で、セッションへの入り方と
雰囲気づくりが結局は肝だったのかな、と思う。

今回の収穫と今後の課題

手応えを感じたのは以下の3つ。

・振り返りの威力
・全員が参加する意義
・ポイントを強調する重要性

宿題になったのはこの3つ。

・行動計画作成までの時間の確保
→今のところどう考えても60分では足りない
・問題の再定義の方法の再確認
→全員が再定義する意味を復習する
・セッション終了後の振り返りの質向上
→成果だけでなく学びを現場に持ち帰るために

引き続き勉強していきたい。

関連する記事

正論が前提とするものとその望ましくない影響について

カテゴリ:自分事

「人と人とのかみ合わせを良くする」

僕が掲げているこのテーマについて吟味するとき、
そこにある前提を置いている、と気づく。

「ある人の言動は(結果が周囲の不利益になるとしても)
元々は”善”なる動機に基づいていると考えてみる」

もしかしたらこれを「性善説」と呼ぶのかもしれない。

ある2人がかみ合っていないとき、
いずれかあるいは両方が相手の動機を「悪」とみなしている。

『結果が「悪」であるならばその出所も「悪」だ』

相手を「悪」とみなしている2人が、
協力的な関係を気づけるようになるだろうか?
残念ながら、その見込みは薄い。

チームとして有機的な行動が求められるとき、
あるいは問題解決の場面であっても、
”善”であると仮定して臨むのが良い、と思っている。
(もちろん言う程簡単ではない)

相手を「悪」とみなして”善”であろうとする傾向について

最も厄介なのが、積極的に「悪」をつくることで
自分だけは”善”を保証される状況に持ち込もうとする傾向だ。

これはいわゆる「ポジショントーク」のことだ。
自分の立場を強化するという目的でやり取りが為される。

批判や中傷というのは比較的分かりやすいケースだ。
感知しやすく、周囲の抑止もしやすい。
そうした行為は良くないという共通認識が得やすいからだ。

より深刻なのは、野放しにされがちなケースだ。
一見して”善”なる振る舞いのように見え、
しかし確実に相手を「悪」の側へ突き落す。
「正論」には、ときにそうした働きがある。

振りかざされた「正論」には気をつけた方がいい。
さらに言えば、その「正論」の精度が高いほど、
修正しがたいという意味で根が深い。

「正論」を投げかけられた相手は「悪」となる

AさんがBさんにある「正論」Cを発したとき、
「BさんはCを知らない」、「BさんはCに反する人だ」
という認識がAさんの前提になっている。

そこにはBさんがもしかしたらCを知っていたかもしれない、
Cに反するつもりがあったわけではないかもしれない、
という性善説的な可能性が認められる余地がない。

さらに、この時点でAさん、Bさんの周囲は
Aに賛同することがほぼ決まる。
Cは「正論」であるがゆえに覆すのが難しいからだ。

Bさんの真なる動機に対する配慮よりも前に、
まず善悪の判断が下るのは望ましいことなのだろうか。

結果でなく動機に注目せよ

僕の主張は、従って「悪」と見なされる行為であっても、
その真なる動機に配慮せよ、ということである。

結果に共感できなくても、その発端となった感情には
共感することが(理想的な意味で)可能だと思っている。
繰り返しになるが、もちろん簡単なことではない。

「罪を憎んで人を憎まず」という言葉がある。
その意味するところともしかしたら近いのかもしれない。

蛇足だが、こうした僕の人間観は
ただただ「ひとの話をきく」という体験に基づいている。
判断や評価を棚上げすることで一瞬見えた世界が、
理想であっても掲げてみたい、という気にさせてくれた。

関連する記事

アクションラーニングにおける「学習」についての考察

カテゴリ:自分事

第3回アクションラーニング勉強会の直後、
アクションラーニングが目指すものについて議論になった。

「問題解決を通じて学習する」ものという認識はあるものの、

・何を指して問題解決と呼んでいるのか
・問題解決を通じて「何を」学習しているのか

がいまいち言葉にできていないので、改めて書籍に戻ってみる。

アクションラーニングの価値

 アクションラーニングの力と魅力は、組織の知識を最大化し、拡充する能力にあると同時に、重要で緊急かつ複雑な問題を解決することにある。問題解決は、個人、グループ、組織に即時に短期的な利益をもたらす(これが、組織がアクションラーニング・プログラムを始動させるための決め手となる)。
 それ以上に重要で長期的なアクションラーニングの価値は、組織全体や参加者のプロフェッショナリズムを通して獲得した学習を、体系立てて応用できるようにすることである。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

ここにある通り、アクションラーニングは問題解決を進めながら、
そのプロセスにおける学習の成果をメンバーが持ち帰ることで、
単発の問題解決で終わらせないことが価値であるとされている。

アクションラーニングでは、問題解決そのものよりも、学習することが究極的にはるかに価値があると考える。例えば、あるエンジニアリングの問題の解決は、100万ドルの価値があるとしよう。問題解決に必要な知識を組織全体で活用すれば、1000万ドルに値するだろう。プログラムを通してメンバーが習得した新しいリーダーシップ・スキルやグループ・スキルは、1億ドルの価値を生むだろう。その企業に在籍している間、各人がその新しいスキルを業務に応用していくからだ。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

・問題が解決されること
・問題解決に必要な知識が組織内で共有されること
・ALを通じてメンバーが成長すること

大きくこの3つがアクションラーニングの価値のようだ。
この3つが兼ね備えられており、かつメンバーの成長を
最も重視しているらしいことを念頭に置きつつ、
「何を」学習するものかを改めて紐解いてみる。

学習を司るALコーチの役割

と息巻いてみたものの、まずはALコーチの役割を確認する。
ALコーチはプロセスにおいて「学習」にコミットする存在。
少し遠回りのようだが、ここに大きなヒントがあると思う。

 ALコーチはメンバーに、①新しい知識と情報を得る、②いろいろなやり方で意味づけをする、③より効果的なグループ活動を展開する、④なぜそのような行動をとったかという理由をさらに深く理解する、⑤信念、価値観、前提を再考する、⑥感情とその影響を知る―ことを自覚させて、学習環境を整えていく。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

ALコーチがメンバーに「自覚させ」るべきことを
アクションラーニングにおける学習の目的語と捉えると

・業務遂行や問題解決に必要な知識、情報、知見
・チームや組織として協働するために必要なスキル
(傾聴やリーダーシップなどを含む)
・自ら省みて改善につなげられるリフレクションの作法
・(学習する組織のThe Fifth Desciprineに当たる)
自他のメンタルモデルの把握

等が習得できる、といったところか。

コルブの「学習サイクル」

「What」に向かう前に、
「いつ」「どのように」学習が行われるのかも見てみたい。

 学習はアクションラーニング・プロセス全般で行われており、質問し、省察し、学習する機会は、コルブの「学習サイクル」の各段階においてグループが問題に対処しているとき、あるいはグループがお互いの影響や行動を省察しているとき、いずれの場合も生じている。
 アクションラーニングでは、①具体的に経験すること、②その経験を観察し振り返ること、③その経験を標準化すること、④標準化した経験を検証することを通じて学習し、知識を得る。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

本書にはコルブの「学習サイクル」の図が掲載されているが、
ここでは紹介できないのでリンク先を参照願いたい。

上記4つのステップはアクションラーニングにおいて
2つのレベルに分けられるという。

【コルブの学習モデル:レベル1】
①具体的な経験
→グループで解決すべき「問題」を扱う

②観察とリフレクション
→ALにおける質問プロセスを通じ、
問題の解決策を練り、成功の可能性を見極める

③標準化と概念化
→酷似した状況下あるいは異なる状況下で、
どう行動を起こすべきかをグループで考える。

④標準化した概念の検証
→問題解決の効果を見るために、
行動計画を検証し、また新たな概念があれば
そえが将来的に有用かを検証する。

【内的なアクションラーニング・モデル:レベル2】
①グループ内での経験
→問題の再定義から始まるALの一連のプロセスを経て
メンバー間で経験を共有した後に戻ってくる(?)

②経験のリフレクション
→意思決定の質やグループの相互作用のスキル、
個人の学習についてのリフレクションを
ALコーチから求められることから生じる。

③効果的な点、改善点の認識
→グループとしてよりよい規範、原則、戦略をつくったり、
メンタルモデルの変容がもたらされる。

④新しい価値観と行動様式の実践
→ALコーチの力を借りながら、
価値観の刷新や変更によって
グループとしての能力が高まっているか、
他の問題に取り組むべきかなどを省察する。

 

①と②がレベル1から2に上がるだけでも、
AL的な場の意義があるということは直感的にわかる。
そういう意味で我々の勉強会において期待できるものを
予めわきまえておくことができると思う。
(でなければバーンアウトしてしまうかもしれない)

もう少し言えば、ALの場及びALコーチの介入を通じて
レベル1からレベル2に移行できるかどうかが
「ALが機能しているか否か」の判断材料の一つになりそうだ。

「何」を学習するのか

いよいよ本題に戻る。

「アクションラーニングが生み出す知識」として
掲げられているのは下記の5項目だ。

■対象を知る どのような知識が必要か突きとめる。
■方法を知る 知識をどのように取り扱うべきかを学習する。
■理由を知る なぜ特定の情報が必要なのかを判断する。
■場所を知る 必要な情報がどこで得られるかを知る。
■時期を知る ある情報が必要なときを見極める。

 アクションラーニング・プロセスの適切な段階で、これらの知識が集められ、選別され、体系的な方法で用いられる。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

野中郁次郎氏の「暗黙知」と「形式知」への言及もある。

 アクションラーニングでは、省察的な質問プロセスを通して学習と行動に焦点をあて、ALコーチによる質問形式のアプローチを導入することで暗黙知を形式知へと変える。この転換によって、グループや組織は暗黙知を活用できるようになり、双方によって素晴らしい、新しい資産および能力となる。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

暗黙知が埋め込まれているはずの経験を、
アクションラーニングを通じたリフレクションによって
学習の機会に転換するという試み。
ここにアクションラーニングの「学習」のエッセンスがある。

さらに、能力開発という観点があることも見逃せない。
ほとんどがメンタルに関わるスキルだ。

 アクションラーニングで個人が習得可能なスキルには、リフレクション、ALコーチからのメンバーへの問いかけとメンバーの質問、システム思考、傾聴、自己認識、共感、問題解決、意思決定、プレゼンテーションとファシリテーションなどがある。また生み出される価値ある能力としては、問題・行動・学習に焦点をあてる能力、フィードバックの提供・需要能力、しっかりとした自己規律と自己統制などが挙げられる。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

ざっくり言えば、経験をベースとした学習のサイクルを
自力で回せるようになり、かつ同僚らと真に協働するための
スキルを伸ばす実践がアクションラーニングなのだろう。

宿題

ここまで、本にある内容を主として
アクションラーニングそれ自体の把握を試みた。

わかったことは、
アクションラーニングという言葉の指す領域は
書籍の中でも多少の揺れがある、ということだ。

アクションラーニングとは、広義には実践を通じて
個人や組織が学習するサイクルそのものを指すが、
一方で狭義にある特定の手法を指すケースがある。

個人的に今後学んでいかなければならないのは、
アクションラーニングを下支えする「経験学習」の理論だ。

これは、注目されているアクティブラーニングにも関わり、
今後の学習理論のコアを担っていくだろう。

早速関連書籍を読んでみたので、
機会があればそれも記事にまとめてみたい。

関連する記事