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教育現場において学習者に委ね、任せることについて

カテゴリ:自分事

今年度に入ってから、勤務先では『学び合い』的な要素を取り入れ、
「学び合い」ができる自習スペースを用意するようになった。

その進歩の様子を見ると、自分が培ってきた教育の常識が
末端から徐々に更新されていくような印象を受ける。

数か月前だが、「エンパワーメント」という概念と、
その仕事の具体的な記述に出会った。

今、その2つが徐々に結びつこうとしている。
この記事では、その言語化の試みのはじめとして、
勤務先における「学び合い」の変化を記述してみたい。

消極的な「学び合い」のスタート

子どもたちが教えあう姿を見た当初を振り返ると、
実は違和感があったことを思い出す。

勉強は自分一人ひとりで淡々と進めていくもの。
静かで、集中できる環境こそが勉強に適しているもの。

自分が進学校でそうした認識を自然と身に付けており、
かつそれが成功体験と結びついているからなのだろう。

わいわいがやがやと勉強を進めるスタイル。
それは自分の常識にないものの一つだった。

スタッフの中でも懐疑的な見方があったのか、
「学び合い」スペースの設置は消極的なスタートを切る。

”早く一人ひとりが自立して静かに勉強できるようになってほしい”
”生徒の要望ではあるが、なるべく利用は最小限であってほしい”

10数名が入ればいっぱいになるような空間をあてがい、
管理面の懸念から利用に多少の制限をかける方針が定まった。

そうして始まった「学び合い」スペース。
学校でも『学び合い』やアクティブラーニングが始まり、
入学当初から順応しつつあった高1生の利用者が目立った。

「思ったよりは悪くない」

普段は静かな学習の時間に、にぎやかさが生まれる。
生徒の動きに戸惑ったのは、ほかならぬ僕自身だった。

”教えあうことが目的なら具体的な問題を持ち寄るはずだ”
”時間制限をかけないとだべる生徒が増えるのではないか”

その想定から利用時間を最大50分に設定。
しかし、それにもかからわず延長を申し出る生徒が出てくる。

利用希望者でスペースは頻繁に埋まり、
人数に従って声のボリュームは大きくなる。

危惧していた事態ばかりだ、と思った。

が、会話を聞く限り、教科に関することが思いのほか多い。
脱線するのは休憩からしばらく経ったころとか、
1グループの生徒数が5~6人に膨れる場合は
やはりノイズが混じりやすいが、頻繁にではない。

「思ったより悪くないぞ」

恐る恐る蓋を開けてみたわけだが、
スタッフの間ではちょっとした発見が共有された。

ただ、「意外に勉強が成り立っている」が、
「効果的な学習ができている」かはわからなかった。
スタッフが日々振り返りルールを調整していっても、
「学び合い」スペースの劇的な改善にまでは至らない。

「化学の点数が上がった!」という声も生徒から挙がったが、
いまいちピンとこないでいた。手応えがなかった。

生徒発信の「学び合い」スペースへ

転機は、教育工学の権威の来島と共に訪れる。

せっかくの機会ということで、Y先生に助言を仰ぎつつ、
高1生たちが学習時間における施設の使い方を検討。
生徒間の人気投票で勝ち残った案を実際に試行することとなった。

選ばれたのは、環境の静かさのグラデーションをより細かくし、
「学び合いスペース」をより広く確保するもの。
そして、生徒考案の学習環境が試行される。

個人的な感想を先に述べると、
生徒の自律性が高まったという点で前進したと感じている。

・生徒が自分で望ましいと思う環境を選ぶようになった

これまでは「静かに一人で学習するのが理想」という
スタッフの意図を反映させた学習環境が主だった。

これは、「生徒が望む環境」が必ずしも効果的ではない、
という認識に基づいている、とも言える。

今回、学習環境が複数用意されることによって、
生徒が自分で勉強のスタイルを選べるようになった。

結果的に、自分に合うやり方は生徒本人もわかっており、
こちらの理想と必ずしも一致しない、という見方を提供してくれた。
(それが効果的かどうかはもう少し観察が必要だろうが)

・生徒に委ねても、目的を逸することは思ったより少ない

「学び合い」スペースの席数が拡充された結果、
利用者数が増え、声のボリュームも少し大きくなっている。

恐らく、何も知らずに見学に来た人がいたら
「こんな状況で勉強しているわけがない」と思うだろう。
しかし、彼らのやり取りの9割が学習内容に関することだ。

ただ、集中を保ち続けるのはそう容易ではないらしい。
あくまで感覚だが、休憩を取らずにいると
後半になるにつれてだべっている時間が増える印象がある。

「学習する」という行為については
とはいえ大人の方が一日の長があるので、
ガイドライン化してもよいのかもしれない。

今後の発展的課題

手応えのある変化があったことで、
次の試験期間が楽しみになってきている。

とはいえ、試験勉強というものの成果は
試験期間中の学習の量と質はもちろんのこと、
なんにせよ平常時の学習状況がものを言う。

個人的には、まだ漠然としてはいるが
「方法」を知らないことが問題になっている木がしている。

生徒の勉強する手が止まってしまうときは、
「現在の単元を理解するために必要な知識量」と
「現在の自分の知識量」との差が広がりすぎてしまい、
その大きなギャップを埋める方法がわからないから。

御しきれないギャップがありながら、
授業は無情にも試験に向けて淡々と進む。
こう書いてみると、割と難易度が高いと思えてくる。

こんなことを頭の片隅に入れながら、
また次の試験期間の生徒の様子を見てみたい。

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勉強へのやる気の出し方:やる気は適切に使って増やす

カテゴリ:世の中の事

「やる気はあったのに…」

今日は勤務先の冬休み開け最初の授業だった。
長期休暇後、生徒に必ず聞くことがある。

「学校の宿題は終わったか?」

案の定、始業式当日にも関わらず未完了の生徒がちらほらいた。
僕が受け持つのは大学進学を希望する高2生。
完了している生徒の多くも始業式前に慌てて仕上げにかかっている。

彼らは不真面目でやる気がないのか?
いや、そうではない。

冬休みに入る前の彼らは「勉強しなきゃ」と語っていたし、
来年から受験生となる自覚をしっかりと持っている。

それでも、冬休みの宿題すら終わらせられないのだ。

やる気は使えば使うだけ増える(※ただし適切な使い方に限る)

それを受けて、彼らにこんな話をした。

やる気は使えば使うだけ増える。
勉強でもノリにのっているときはそんな感覚になるはずだ。
それはやればやっただけ成果が出る手ごたえがあるからだ。

逆に、やっても無駄なことに対して、あるいは適切でない状況下で
やる気を燃やしても、やる気は浪費される一方だ。

終わりが見えない作業を義務感なしでやり続けられるだろうか?
大みそかや正月の雰囲気で勉強できるだろうか?
家族と旅行に出かけているタイミングで勉強したくなるだろうか?
そんな場合でも集中して勉強できるという人の方が珍しい。

冬休み突入時からやる気にあふれ、真面目な君たちは、
きっとクリスマスの誘惑で勉強できなかった自分を嫌悪しただろう。
しかし、それが当たり前なのだ。
そんなところで真面目な自分を保とうとする必要はない。
その罪悪感がやる気を削いでいるのだから。

勉強に不適切な状態でやる気を燃やし続けていれば、
後半になるにつれてやる気が目減りするのは当たり前だ。
休むときには後ろめたさを感じること休め。
その分やれるときに集中的にやる気を発揮しろ。

割と生徒が納得してくれたので、ブログでも紹介することとした。
こんな話でも誰かのためになると良いのだが。

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数学の記述力を上げるために:場合の数と確率を用いて

カテゴリ:自分事

※本記事は勤務先の隠岐國学習センターにて、
場合の数と確率を用いた数学の記述力向上を目的とした授業の際に
生徒に指示・伝達する内容をまとめたものである。

「場合の数と確率」を苦手とする原因は読解力不足と記述力不足にある

○よくある課題
小問集合のように単一の問題として出題されると解けるが、
大問形式になると(1)から完答できない。

○原因
(1)問題の読解力がない(設定を理解できない)
(2)数学の答案を記述する力が不足している

○背景
「場合の数と確率」分野で最も重要なのは「考え方」である。
この分野は、特に模試において設定を丁寧におさえることが必要であり、
そのため計算式に至るまでの記述量(=どのように考えたか)が必然的に多くなる。
多くの生徒は数学を、公式等を用いて計算し、答えを示すものと見なしているが、
上述の通り具体的な計算よりも考え方に重きが置かれる分野のため、
計算はできるのに状況の理解と立式の根拠が不足し、結果、得点に至らない。

「場合の数と確率」を用いた読解力・記述力の向上の方法

○指導の方針
・教材:例題+演習問題の構成のもの(「チャート式数学」等)

○進め方
(0)「場合の数と確率」分野の例題の問題、図及び模範解答を1字1句漏らさずにノート等に写す
(1)演習問題を解く。具体的な答案作成に入る前に図やイメージを書く。
(2)(1)の図・イメージ及び例題の模範解答を元に答案を作成する。
(3)1問解く毎に丸付けをする。指導者から添削を受けるか、または同級生と互いの答案を丸付けし合う。
(4)一通り解き終わったら、例題を見ずに解答するチェックテストを行う。
※(0)は省略可

○ねらい
・図、イメージに落とし込む→読解力向上
・模範解答をまねる→記述力向上(答案の型の定着)
・記述を添削する→記述力向上(答案作成に必要な観点への気づき)

○留意事項
・図、イメージには手加減しない。サボらない。
→例えば大小2個のサイコロを振るような設定であれば、36パターンをすべて記述する。
樹形図も書けるだけ書いておく。袋から玉を取り出すならまずは絵を描いてみる。
特に「場合の数」問題はパターンを書き切ればそれだけで答えが求められるものが多い。
答えを見つけるプロセスをどのように答案として表現するか、それが記述力である。
まずは設定を確認し、その上で立式から答案作成に持ち込むことが肝要である。

・記述は模範解答をそっくり真似る。
→記述力不足の原因の一つとして、解答の”型”を体得していないという問題がある。
チャート式等の網羅系参考書は、例題から模範解答を学んでこそ価値を発揮する。

・記述は不足するより過剰な方が良い。
→過剰に記述した答案と解答用紙を見比べてはじめて、何が答案に必要/不要かがわかる。
また、計算式を書いただけの答案では、自分の考え方をトレースすることができない。
とにかく記述しまくった答案は、模範解答との差異という形で多くの学びを提供してくれる。
「ここまで書く必要があるのか?」と疑問に思う暇があったらとにかく答案に盛り込むべきだ。
要不要は答え合わせの時点で判断すればよい。

・丸付けはまとめてやらず、一問解き終わるごとにする(小問毎でもよい)
→学習効率の向上は、フィードバックループをいかに早く回すかにかかっている。
自信がない問題ほど速やかに答案と模範解答とを見比べ、違いを認識し、
その違いを次の問題の答案作成に生かす。そのループは細かいほど良い。
あとでまとめてやると、多くの無駄な間違いが発生し、かつ解き直しに手間がかかる。
余計な復習を最小限にするためにも、「これ以降は解ける」という感覚をつかむまで
細かく丸付けをし、自分の「考え方」を微調整するのが望ましい。

・丸付けは式や答えだけでなく日本語の使い方にも注意する。
→自分の答案と模範解答の記述の違いこそが「考え方」を改める良いきっかけとなる。
式は「考え方=記述」の結果にすぎず、答えは式の計算の結果に過ぎない。
繰り返しになるが、「場合の数と確率」分野で最も重要なのは「考え方」である。

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