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田舎で暮らし様々な働き方を一年間体験できるプランの可能性

カテゴリ:世の中の事

給料の全額を海士町の地域通貨「ハーン」のみで受け取りながら海士町で暮らしている本田さん(※2012年7月30日現在)のブログより。

いま作ろうとしている人材派遣システムを、海士町に定住して働きたい人のための「お試し機関」「お試し期間」としてのものにするということ

Iターン希望者、Uターン希望者、そして地元就職希望者に1〜3年くらいの期間で、派遣社員としていろんな職場で働きながら、また島の暮らしを体験しながら、生活する中で生まれる交流も含めて、人脈も築いたりして、自分にあった職場を見つけるための「機関」「期間」となればいいな、と。

走り書きメモ : 海士町的地域通貨生活

本田さんは海士町内の岩牡蠣の養殖、民宿、ホテル、レストランなど、繁忙期に合わせていろんなところでお仕事をされていました。
単なるアルバイトであっても、これだけの仕事を一年間で体験することは、なかなかできません。

現代社会の働き方を反省する流れが大きくなっている昨今。
住む場所もがらりと変え、様々な職場で様々な仕事をし、多様な人と関わる
そうすることで、自分のやりたいことやありたい姿を見出す機会を生み出せるわけです。
これ、実は全国的に見ても一定のニーズがあるのではないかと見ています。

以下ではこのような取り組みを仮に「地域派遣事業」として話を進めます。

ニーズの話(1):受け入れられる側

平均的な労働時間の長さでは世界トップレベルを行く日本人。
2000年代に入ってからはあらゆる職場で精神疾患による休職・退職が後を絶ちません。
サービス残業を強いられる職場も多く、日本の労働環境ははっきり言って良くないと言えます。

最近、働き方を問い直す声があちこちで挙がっているのも、劣悪な労働環境への反省の表れでしょう。
この動きは労働環境改善の流れだけでなく、個人としてどう働くべきかを再考する機会もまたつくりだしています。
過激化する就職活動を通じて、大学生のうちから働くということをじっくり考える人も増えているのではないでしょうか。

欧米では就職前にギャップイヤーを取得して自由に見聞を広めることが当たり前に行われています。
日本は新卒一括採用制度があるため、具体的な経験を通じて「働く」ことを考える機会を得た人はそう多くありません。

僕は、就職活動の際にはじめて「働く」とか「仕事」について考える必要に迫られました。
そこで困ったのは、そもそも仕事の経験が乏しい、という点です。
学生時代、アルバイトは幾つか経験しましたが、そこでは給与の優先順位が高い。
「自分に合う仕事」ではなく、学業やサークルと両立でき、かつ時給が良いアルバイトを選ぶわけです。

それは就職後も変わりません。様々な経験をしたいと職場を転々とすれば、履歴書が汚れてしまいます。

年齢を重ねるごとに実務経験が求められ、未経験の仕事に就くということはますます難しくなります。
経験を積むことと飯を食うことの両立を考えると、なおさらです。
実状としては生涯を通じていろいろな仕事を体験し、その中で自分の働き方や適性を考えることは困難であるという見方が一般的です。

そのような背景を踏まえると、「地域派遣事業」のメリットとして「田舎」というのもポイントになりえます。
海士にいるIターンの方の中にも、都市部でハードワークに従事していた方が少なくありません。
これまでと全く逆の環境に身を置くことで、あり方、生き方、関わり方を再考することができるのです。

もし1年間を田舎で過ごしながら、期間内に様々な仕事に就くチャンスをつくることができたら。
「地域派遣事業」でとりあえず飯は食える仕組みを用意することで、一定のニーズに応えられそうな気がします。

ニーズの話(2):受け入れる側

一方、「受け入れる側=田舎」のニーズはどうでしょうか。

まずは、なんといっても定住促進でしょう。
特に過疎化が進む離島中山間地域においてはUIターンを増やすことは喫緊の課題です。

個人的に定住促進の取り組みで印象が良くないのは、いきなり定住を迫ることです。
住んだこともない地域に定住を前提として移住することは、非常にハードルの高いことです。
受入側としても投資を無駄にしたくないわけですから、定住を条件にする気持ちは理解できますが、これではパイを拡げるのが難しい。

海士町では定住を前提とした定住促進が前面にでていない印象があります。
まずは海士町での仕事が先に来る。「こういう仕事があります。来てみませんか?」そこから始まるわけです。
その仕事が気に入れば、あるいは海士町での暮らしが性に合うと思えば、定住すればいい。
フラットなスタンスが移住へのハードルを下げてくれます。
もちろんIターン者全員が定住するわけではありませんが、パイが増えるため、結果的に定住も増える。
端から定住を迫るよりも、よほどフェアなやり方だと思いませんか?

「地域派遣事業」 もこのスタンスを踏襲することで、従来の定住促進のターゲットとはまた違う層に対してアプローチできます。
一定期間を地域で過ごしつつ、様々な仕事に触れ、定住のきっかけを掴んでもらうよう働きかけることができそうです。

副次的な効果として、話題づくりも期待できるでしょう。
定住促進におけるフェアなスタンスに対する評価を集めることができれば、定住促進の好循環が生まれることが期待されます。

具体的な話:どのような仕組みが適切か

真っ先に課題になるのは、受け入れる現場(派遣先)の確保になるでしょう。
ただでさえ仕事・雇用がないと言われる田舎ですから、受入先を見つけることすら困難であることは容易に想像がつきます。
純然たる人材派遣業として受入先からお金をもらうモデルを成り立たせるとすれば、相当数の派遣先と関係性を持ち、繁忙期に合わせて派遣事業全体をコーディネートする必要があります。
現実的には、派遣元が国の事業などを受託してそこから給与を支払い、派遣先は仕事の提供のみ行うのが落としどころになるでしょうか。

定住促進と派遣される人の体験のどちらを前面に出すかでお金の出所は変わります。
後者を中心に据えるならば、その代わりとしてある程度受入側の負担を減らす必要があるでしょう。

派遣元のコーディネーターとしての役割も重要になってきます。
とにかく定住促進につなげることが地域の最大のメリットなのだから、派遣される人が地域と関係性を作る機会を予め用意するべきでしょう。
労働市場が成熟していない田舎の派遣先では、都市部の常識が通用しない場合もあります。
トラブルの発生も十分に考えられますから、事前にリスクをつぶしながら、派遣される人にも派遣先にも負担が偏らないよう、密に連携を取ることが肝要です。
また、非常に実務的な話ですが、労働者派遣法に抵触しないような対応を検討する必要もありますね。
この辺りは難しいところですから、専門家の意見を仰ぎたいところです。

派遣先の確保が難しいと書きましたが、複数地域をまたいでの研修も面白いかも知れません。
春は岩手、夏は海士、秋は高知、冬は秋田、とか。
定住者の奪い合いになるリスクはありますが、定住以外の面で各地域にメリットがあれば、事業の持続可能性が担保できるはずです。

地元・秋田でもこういった取り組み、してみたいですね。
今後ももうちょっと具体的に考えていこうと思います。

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研修の場としての地域の可能性~海士での経験を通じて~

カテゴリ:世の中の事

通常業務に加えて、先週辺りから海士に来ている都内の私立大生3名の研修のコーディネートをしています。
視察に来られた方や業務補助をメインとして来島したインターン生の対応をしたことは何度もありますが、研修の中で参加者の成長を引き出すことを第一に考えたのは初めてなので、こちら側もいろいろ勉強になっています。

明日、2週間の研修の最終報告会があります。
それまでに何度かフィードバックの機会があったのですが、それに対して3名が自分なりに応えようとしている姿が見受けられました。
全く異なるタイプの3名が、最終報告会でどのようなアウトプットを出してくれるか、非常に興味があるところです。

そんなタイミングで、いろいろ思うことがあったので、簡単にまとめてみました。
(終わってからまとめたらいいじゃん、とも思いますが)

まとめ

書き出したらびっくりするくらい長かったので、ざっとまとめます。

・地域での研修受入は、他地域との差別化につながる(かも)
・利益目的だけだと、地域での研修受入は、辛い
・地域で研修受入を行うにはコーディネーターが必要
…地域のリソースと研修する側のニーズの把握とすり合わせ、プログラムの組み立て、関係性づくり
・海士の「もてなし」すごい!
・秋田もリソースいっぱいあるから受け入れたらいいじゃん!
→今まで秋田に来なかった層のネットワークを活用できるかも…。

研修の場としての地域の可能性

そもそも「研修」って何よ?というところですが、大きくは「スキル・知識の習得」と「マインドの変化・醸成」の二つの方向性があると思っています。
実際には、一つの研修には二つの目的が入り混じったかたちで実施されることが多いと思われます。

こんな記事もありました→価値のある研修とは?
「研修」という形式をとるのであれば、せっかくなら自習では得られないものを提供しようとするのが筋でしょう。

研修の場としての地域の活用方法に目を向けてみると、
・集中研修-隔離された場
・実地研修-実践、体験、フィールドワークをする場
の2種類がほとんどを占めているのではないでしょうか。

前者の場合は「どの地域か」ということはそこまで問題にならず、研修を受ける側(研修主体)は職場や普段の生活との距離やギャップの大きさを重要視する傾向にあるのではないでしょうか。
その場合、どうしても目に見える交通費、滞在費、距離、宿泊先の環境、食事の良さ、温泉があるかどうか、などで比較されてしまうのがネックです。
関東を例にすると、東京から車でも2~3時間程度の距離にあるところ、千葉や埼玉の田舎ら辺、箱根、伊豆なんかがよく利用されているイメージを勝手にもっています。

逆に、なかなか測りづらい地域の独自性や魅力を活かすなら、後者の可能性を追求するのが良さそうです。
海士町や秋田など、都市部と離れている場合、特に意識しなければいけないのがこの部分と言えるのではないでしょうか。
(ちなみに、観光面においても、差別化を図るために同様の観点が問われているように思います)

地域で実地研修プログラムを実施する際の課題

場所さえ確保すればいい集中研修の場合は、研修主体がプログラムを策定することがほとんどでしょう。
施設を利用する場合でも、形としては地域側が提供することになりますが、ほとんどは既存のサービス(温泉など)をそのまま提供することがほとんどなので、研修だからといって特別に地域側で工面することはないと思われます。

逆に、実地研修について考える場合、プログラムは基本的に地域側から提供する必要があります。
ここに、集中研修を受け入れる際には発生しない課題が浮上するポイントがあります。

・研修主体のニーズを地域が把握できない

研修主体として考えられるのは、企業、自治体や関連組織、NPO、大学など様々です。
主体がさまざまであるということは、それぞれの研修に対するニーズもばらばらである、ということです。

もちろん研修の目的は先に挙げた2通りで大きく括ることはできますが、正確にニーズを把握するには、それなりの経験やノウハウが必要です。
単に研修主体の言葉を鵜呑みにすればいいわけでなく、

・研修主体に応じてどのような研修成果が求められるか
・最近の研修の傾向(流行、時代背景など)を認識しているか
・研修主体の人数や日程を考慮できるか
・研修参加者のレベルやモチベーションを考慮できるか
・ニーズを正確に引き出すためのヒアリングができるか

などなど、配慮すべきことは結構多いです。

・研修主体のニーズに応じたプログラムを提供できない

研修主体のニーズが正確に把握されたとしても
・ニーズに応じたプログラムが地域側にあるか(あるいは組めるか)
・ニーズに応じてプログラムを選択することができるか
という問題が別個に付きまといます。

実際には、ニーズの把握に課題を抱えている地域は、同時にこの課題にも頭を悩ませるように思います。
日ごろから研修主体のニーズを把握できているということは、地域で提供できるものによってどのような研修のニーズを満たせるのかも検討できるということだからです。
地域側のリソースを把握できていれば、情報発信の段階で提供できるものを正確に伝えることができるので、研修主体のニーズとのミスマッチも回避しやすいでしょう。

ここにもスキル不足の問題があると言えますね。

・利益目的で研修を受け入れるのは難しい

実地研修受入の際には、基本的に地域側のリソースを割く必要があります。
そこにおける最大の課題は、人手を割けるか、という点です。
要は、「研修受入はめんどくさい」ということです。

地域が単独で研修受入が主な業務となっている組織・機関を持っている、ということは、あまり考えられません。
海士町ではほとんどの企業研修は巡の環が受入を行っていますが、大学や自治体の研修・調査・視察などは町が受け入れています。
後者の場合、町では研修主体ごと、あるいはニーズごとにコーディネートを行う部署が割り振られているようです。

つまり、通常業務と並行して研修の受入が行われます。
海士では担当課長が2~3日島外からの研修につきっきり、ということも、そこまで珍しい光景ではありません。

特に視察などの場合、滞在費と視察費が地域に落ちますが、コーディネートのコストはかなり大きいものがあります。
平常業務が滞ってしまう以上、あらゆる研修・視察を受け入れる地域(自治体)というのは、そう多くないのではないでしょうか。

実際問題として、「なぜ研修・視察を受け入れるのか」を組織内で明確にすることが求められると思います。
場合によってはメリットのない研修・視察受入は断ることも必要になるからです。

海士町の場合

他の自治体を良く知るわけではないですが、海士町では研修や視察の受入を積極的に行っていると感じます。
海士町は、まちづくりの分野では全国規模で有名なために研修・視察受入の依頼が多いという側面もありますが、それにしても歓迎ムードすら漂う感があります。

海士町の山内町長は「もてなし」という言葉をよく使われます。
田舎の人は見知らぬ人にも優しい、というイメージをなんとなく持たれている方も多いと思いますが、役場の課長陣をはじめとする方々がそれを体現している、という感じですね。
大きなコストがかかるにしても、人の縁を大切にする。有り体に言えば「一期一会」といったところでしょうか。

しかしながら、それが確実にファン層の拡大や新たなネットワークの構築に役立っているように見受けられます。
要人が来島した際の受入も隙がないのは、日ごろから「もてなし」が実践されているおかげかもしれません。

小さな島だからこそ、リソースの把握とプログラムへの組み込みがしやすい、という点も見逃せません。
研修や視察の場となりえる事業所や三セクとの関係性ができあがっているので、体験や視察を比較的気軽に依頼することができるのでしょう。

巡の環も、地域の人からの信頼作りを丁寧に進め、頼り頼られる関係性を構築することを重要視しているようですが、それによって海士でしかできない企業研修のプログラムづくりが可能となっている印象があります。
コーディネートする主体だけがリソースをすべて掌握している、ということはなかなか起こりにくいはず。
地域を研修のフィールドとするためには、関係性が重要となるのではないのではないでしょうか。

島のリソースに自信を持っていることも一因として挙げられそうです。
外から人を受け入れられることに抵抗感がないのは、見せたいもの、感じてほしいものがたくさんあるからこそかもしれません。

自信のあるリソースが増えればそれだけ研修プログラムの幅が広がり、多くの研修主体のニーズを満たすことが可能となります。
巡りの環は関係性の構築と並行して地域の人や資源、文化の魅力の掘り下げをしっかり行うことで、プログラムの精度、つまり「ニーズを満たせるかどうか」を高めることができているのかもしれません。

秋田で研修を受け入れるとしたら

僕の地元である秋田県で研修の受入を行うとしたら。

民の動きが活発化しつつある(と感じる)こともあり、研修のコアとなる「人」というリソースはたくさんあると思います。
第一次産業やそれに深く関連する食品加工の分野から見ても、例えば日本酒にまつわるストーリーは非常に魅力があるのではないでしょうか。
僕の地元の蔵でつくられている「やまとしずく」なんか、その典型ですね(お酒と実家の宣伝もかねて)。

先に上げた地域における研修受入の課題や海士町の特徴を見てみると、必要となるのは「コーディネーター」の存在であると言えるのではないでしょうか。

コーディネーターの役割は以下の通りです。
・リソースを把握する(関係性づくり)
・リソースをプログラム化する(リソースとニーズのすり合わせ)
・諸々の雑務の引き受け

地域のリソースを見極め、研修主体のニーズを踏まえながらプログラム化し、研修全体のスケジュール調整やアテンドを行う。
そのようなコーディネーターの存在によって、各事業主体の研修受入のスキルがさほど問われることなく、効果的な研修プログラムの提供を進めることができるはずです。

逆に言えば、今はコーディネーターが不在(あるいは不足)している段階ともいえます。
当然、秋田という地域そのものの方向性もあるでしょうが、一つの可能性として、検討してみるのもありなんじゃないでしょうか(根拠なし)。

もちろん、事業主体がスキルを身に付けるのも一つの手段だと思います。
例えば、秋田はグリーンツーリズムの足場がずいぶん固められており、農家民宿の開業も増えています。
そんな中、農業体験や田舎のゆとりある時間を楽しむという方向性以外に、学びの場としての農家民宿の可能性を考えることもできるのではないでしょうか。

現実性はとりあえず置いておくとしても、農家民宿のご主人がファシリテーターのスキルを習得することで、これまでの農家民宿が狙う層とは別のターゲットに秋田を訴求することができるかもしれません。
そのターゲットとなる人は、自身の人間的成長やよりより生き方に対する意識が高いと想像できます。
そのような層が秋田というフィールドに触れ、関心を持ち、かかわりを築き、交流が生まれることで、何か面白い影響が出てくるようにも思えます。

余談…僕が秋田での研修受入を提案する理由

海士町にIターンが多く訪れる理由として、ネットワークを持っている層が先行してIターンしてきたことが挙げられるのではないか、と勝手に思っています。

人のつながりが、海士ファン拡大に確実に結びついている。
海士に来てからというもの、そう思わされることがたびたびありました。
秋田というフィールドを学びの場として発信することで、そのようなネットワークを持つ層が集まってくる、そんな期待も込めて、こんな提案をしてみました。

※この話については、自分の中で整理ができたら、改めて記事にまとめようかなと思っています。

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