Tag Archive: 教育

学習者が自らを伸ばすために:コンフォートゾーンとパニックゾーンの間

カテゴリ:世の中の事

経験学習(Experiental learning)理論では、学習者が置かれる環境は大きく3つに分かれるという。

1.コンフォートゾーン(Comfort Zone、快適空間)
2.ストレッチゾーン(Stretch Zone、背伸び空間)
3.パニックゾーン(Panic Zone、混乱空間)

詳しくは下記リンク先など参照のこと。

成長するための近道:コンフォートゾーンとは、そして抜けだすには | ライフハッカー[日本版]

要点としては、学習者が最も成長できるのは「2」ということ。
快適でノーリスク、ゼロコストな環境で学びが得られないと同時に、
ストレスが非常に強く冷静でいられない状況で学ぶ余裕はない。

学習者自身がこの「ストレッチゾーン」に自らを置くためにはどうすればいいだろうか。

外部からの可能な働きかけとしては、
例えば上司が部下の能力を少し超える仕事を任せるという方法がある。

これは現場の中で人材を育てる典型的なやり方ではあるけれど、
仕事の出し手の見極めと同時に仕事の受け手の態度の問題を無視できない。

率直に言えば、学ぶ(成長する)つもりのない学習者が、
自らの能力を少しでも超えるような環境に身を置きたがるとは思えない。

より具体的に考えると、例えば得意な英語はどんどん伸ばしたいけど、
苦手な数学は分数の計算だってやりたくない、みたいな。
そういう状態の学習者の数学の成績を伸ばすためには、
学習者の数学の成績向上に対する「合意」あるいは「納得」が必要なはずだ。

受験勉強の場合でも、説明可能だからと言って合意形成が容易とはならない。
志望校合格に必要な成績と現状とのギャップによってロジックが成り立っても、
苦手教科克服にコミットさせるのは得意教科のケースと比べ骨が折れるのは間違いない。

逆に言えば、「納得」をつくることこそが適度な”背伸び”の鍵と考えられないか。
これが「べき」を押し付ける「脅迫」になると環境は一気に混乱に転じる。
このバランスをどうとるか、CとPの間には絶妙な間がある。

「納得」をつくる作法はいくつか考えられるだろうが、
自分を成長させるのがうまい人はきっと自ら「納得」をつくるのに長けているのだと思う。
学習者自身の中に課題を見出すのは自己責任的で気が引けるが、
これを認めればこそ、例えば新卒の人材要件とか、
キャリア教育の目指すべき方向性が見えてくるのではないかと思う。

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【告知】海士町で教育×地域の最先端に触れるイベントを開催します【10/12(日)】

カテゴリ:告知

僕が関わっている「島前高校魅力化プロジェクト」。
当プロジェクトが全面的に協力するイベントが開催されます!

 

以下、告知文です。

『島の教育会議』  「挑戦する教育」~ここに答えはない、未来はある。

かつて廃校寸前だった離島の高校が、今では日本中から生徒が集まり、
海外からも入学希望者が来る学校に変わりました。
進学に不利と言われる小規模校にも関わらず、難関大学へ進学する生徒も増えています。
教育関係者だけでなく、企業の経営者、日本の大臣、 外国大使、
ハーバード大学の学生など視察や訪問が絶えない学校がここにあります。
島全体を学びのフィールドにした、地域と共に創る教育、地域をつくる教育が始まっています。

この島の学校で何が行われているのか。なぜ全国から高校生が集まるのか。
そして島の教育は何を目指して、どんな挑戦を更に仕掛けていくのか。

隠岐島前高校の取り組みを中心に、この島で取り組まれている教育、
そしてこれから挑戦する教育について、参加者の皆様とともに議論し、
新しい挑戦を創る場としてこの会議を企画しました。

生徒からの発表も含めた事例発表、各分野にわかれての分科会、
さらにプロジェクトメンバーも交えた交流会も予定しております。

以下の詳細をご確認の上、いざご参集ください。

—イベント概要—

第3回島会議「島の教育会議」
挑戦する教育 ~ここに答えはない、未来はある。

主催:一般社団法人 海士町観光協会
協力:島根県立隠岐島前高等学校、財団法人島前ふるさと魅力化財団

日時:2014年10月12日(日)14:00~18:00
場所:島根県海士町 中央公民館 島民ホール
※交流会:19:00~21:00

料金:3,000円(交流会参加者は別途5,000円)
※当日午前中に町内ツアーにご参加される方はツアー代3,000円が別途発生します。

定員:100名
申込期限:平成26年10月5日(日)
申込:「海士町観光協会」ホームページからお申込ください。
http://oki-ama.org/news/1381.html



【プログラム】
14:00~16:00 実践発表「島の教育の“今”」
【高校生、高校魅力化プロジェクト、学習センター、島前高校教員等】
地域の課題解決に取り組む高校生をはじめ、挑戦する教員、
進化する公立塾、仕掛ける地域など多様な立場から、今の実践を紹介します。


16:00~18:00 分科会「島からつくる教育の“未来”」
島の教育の現状や課題、未来への想いを踏まえたうえで、
分科会ごとに参加者の皆さんとこれからの取り組みについて議論し、
新たな可能性を共につくります。


第一分科会:グローカルキャリア教育
昨 今、目にする機会の増えた「グローバル人材」という言葉。一見グローバルとは程遠い隠岐島前でも、グローバル×ローカルのバイリンガルである「グローカル 人材」の育成に取り組んでいます。日本、そして離島という辺境だからできる「グローカルキャリア教育」の社会的意義と可能性を探求しませんか?

第二分科会:世界中から生徒が集まる島留学
島 前高校の特徴の一つが「島留学」制度。全国から「普通の高校では物足りない」意欲的な中学生を募り、現在は全校生徒の約半数が島前地域外出身です。ど田舎 からグローカル人材輩出に挑む島前高校が、全世界から“脱藩生”が集まるグローカルな学校となるためには。刺激的な議論の展開を期待します。

第三分科会:新たな半寮制による全人教育
島 留学生が暮らす寮。生徒たちは出身も価値観も異なる同世代と寝食を共にする中で、意見の相違や衝突を経て、多文化協働を体得します。現在新たに「研修交流 センター」を建設中。地域住民や来島者に開かれた場を共に創り、生徒に寄り添う大人はどうあるべきか。島暮らしそのものを通じた全人教育の実践が加速しま す。

第四分科会:挑戦する学校・地域連携型公立塾
地域と協働しゼミ形式の授業を取り入れながら、地域の未来を担う人材育成を行う のが、公立塾「隠岐國学習センター」です。高校と定例の打ち合わせを持つなど、学校との密な連携を実践しています。地域や学校と協働しながら、人口減少社 会に求められる新しい教育のモデルづくりに挑戦します。

第五分科会:地域と学校の協働の進化形
島前高校、島前3町村、地域住民、 保護者、県や国の各機関…。魅力化プロジェクトのステークホルダーは実に多様です。それら関係者と共に歩む上でのキーワードが「協働」であり、それを担う 「コーディネーター」の存在が欠かせません。コミュニティ・スクールを超える地域と学校の「協働」の形を模索します。

第六分科会:先進的ICT教育活動
近 年ICTを用いた新しい教育手法の開発が盛んになっています。ICT自体は単なるツールですが、魅力化プロジェクトではICTによって個に対応し、世界に 開かれた学びの場づくりを実現する可能性を模索しています。遠隔授業、動画講義、タブレット学習の先にある「地域で活きるICT教育」を一緒に考えません か?

第七分科会:教育を核とした地域活性化
島唯一の高校の統廃合という危機から始まった魅力化プロジェクト。島にとって存続と活 性化のレバレッジポイントである教育の挑戦は地域に何をもたらすのか。「学びの島」ブランドの確立に向けた、地域を担う社会人へも学びを開く「島まるごと 大学」の創設など、教育×地域の新たな地平を探ります。

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小中学校・高校がなくなると集落が消滅するという話

カテゴリ:自分事

国立教育政策研究所-人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究(PDF注意)

離島の高校の存続と魅力化の一端に関わる身として、実に興味深い報告書です。

(1)調査研究の目的
我が国の人口減少局面を踏まえて中長期的な将来を見据えると,近い将来に現状のままでの学校教育機能を維持することは困難となる地域が増加し,教育政策上の大きな課題となることが予想される。これからの人口減少期における学校教育に関する政策形成と制度設計に向けた検討に資するため,それらに先行して検討課題を整理し,検討手法を開発し,及び調査結果や諸外国の事例など検討に有用な資料を蓄積することを目的とする。

「人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究 最終報告書」の概要について(PDF注意)

本報告書は全体版で300ページ近くとかなりのボリュームですが、
人口減少社会への対応として、これまでの統廃合の在り方の評価やICT活用の活用性、
日本や海外の事例分析など多岐にわたる研究成果が収められています。

その中でも気になった以下の2章に目を通してみました。

・第13章 諸外国における人口散在地域に対する教育政策
・第17章 人口減少下における農山村地域の変容と地域社会の存続要件―教育環境に着目して―

これらを読んでみてわかったこと。
それは「学校がなくなると地域がなくなる」ということでした。

中国の事例―行き過ぎた統廃合の先に

中国では、特に農村部において義務教育を普及させること及び都市部と農村部の教育の質の格差是正を第一の優先課題とし、都市部と農村部の教員人事交流、情報通信技術を用いた農村部への優れた授業の配信、寄宿制学校の建設等を含む様々な施策が展開されてきた。義務教育の普及が一段落した今、学校統廃合等による様々な弊害に対応しつつ、少子化に本格的に対応する必要に迫られている。

人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究

中国は日本の約25倍の国土面積。
ご存じの通り中国は都市と農村の経済格差が著しく、義務教育の普及も遅れているようです。
1986年の「義務教育法」制定以降、国を挙げて初等中等教育の普及に力を入れてきました。

施策としては情報技術を活用した遠隔指導、授業料以外の諸経費や教科書代の補助、
寄宿制学校の設立、都市部と農村部の教員の人事交流、非常に多岐にわたっています。
実際、大規模な投資が功を奏し、中国国内の年々義務教育は発展していきました。

義務教育普及のための教員給与等を負担していたのは郷・鎮レベルの政府であったが、財政難により給与不払が生じるなどの問題が生じたことから、2001年以降、国務院が「義務教育の改革及び発展に関する決定」に基づき、県レベルの政府に教員給与を負担させるよう指導した。この結果、管理業務が負担となった県は、同決定13条「地域の状況に応じて農村の義務教育段階の学校の配置を調整する」に基づき、小規模な学校及び教学点(農村地域において第1~4学年までを対象とする教育コーナー)を統廃合し、地域の中心となる学校への教育資源の集中化、中心学校への寄宿舎設置を実施してきた。

人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究

ところが、業務負担を嫌った県が統廃合を推し進めてしまい、
2010年には義務教育普及率が100%に達したものの、様々な課題が噴出しています。

・児童生徒数が5000~10000人を超えるマンモス校が出現、設備不足や衛生状態悪化
・児童生徒が数十キロを徒歩で通学するケース、学校近くの民家に寄宿するケースが発生
・寄宿にかかる費用や交通費により家計の圧迫
・家庭教育の機会損失
・安全基準を満たさないスクールバスによる死亡事故の多発

さすがというべきか、日本では考えられない事態も見られますね…。
そして気になるのは以下の記述です。

また、直接教育に関することではないが、農村の中心的な文化施設である学校がなくなり、教員がいなくなったことで文化的求心力がなくなるとともに、児童・保護者が移動した結果農村コミュニティが荒廃したこと、少数民族の児童が早くから地域や家庭を離れて中心学校に入学するため、伝統文化の継承が難しくなっていることなども課題となっている。

人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究

児童・保護者が移動した結果農村コミュニティが荒廃
少数民族の児童が早くから地域や家庭を離れて中心学校に入学するため、伝統文化の継承が難しくなっていること

日本と中国では国土面積に大きな差があるので一概には言えませんが、
日本でも同じような事態が起こることは想像に難くありません。

教育は投資か/コストか。
ここを間違えると、学校だけでなく地域の存続に関わるわけです。

日本の農山村地域の消滅要因と教育環境

隣国の事例から学校の存続と地域の存続の関係性の示唆を得ました。
日本における農山村地域の存続要件に関する研究からも、教育環境の重要性が垣間見えます。

ここでは端的に2000年時点の日本の市町村のデータを用い、
「定住人口維持要因」を分析した調査結果を紹介します。

いわゆる「中山間地域」において人口維持可能な自治体と過疎化が進む自治体を分ける変数として、
影響度の高いのは経済的な要因がほとんどですが、
その中で「高校通学困難集落率(※)」も有意な変数として挙げられています。
※自治体内における高校への通学が困難(最寄りの高校まで20km以上)な集落の割合

それをさらに「山間地域」に限定すると、「高校通学困難集落率」の影響度は
数ある変数の中で最上位に位置してきます。

また、別の調査では小中学校や役場などの公共施設へのアクセスが
集落の消滅に影響を与えるという結果が出ています

詳しくは本報告書をご参照いただきたいところですが、
ここからシンプルにいえることは、定住人口の維持のためには
教育環境の影響が無視できない、ということになります。
日本では公立校の統廃合が進められていますが、
それが地域の存続に関わる、という行政も望まない結果が待っているかもしれません。

おわりに

本報告書はこれ以外にも示唆に富む報告が含まれています。
個人的にはオーストラリアにおける人口散在地域の事例も興味深いものでした。
が、長くなるので本記事では扱いません。
教育の未来を考えたい人はぜひご一読を。

 

僕が関わる「島前高校魅力化プロジェクト」も、
発端は島唯一の高校・隠岐島前高校の統廃合の危機でした。

高校がなくなると地域がなくなる

改めて見ると実に的を射た危機感だなと、感銘を覚えてしまうのでした。

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