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アクションラーニングにおける「学習」についての考察

カテゴリ:自分事

第3回アクションラーニング勉強会の直後、
アクションラーニングが目指すものについて議論になった。

「問題解決を通じて学習する」ものという認識はあるものの、

・何を指して問題解決と呼んでいるのか
・問題解決を通じて「何を」学習しているのか

がいまいち言葉にできていないので、改めて書籍に戻ってみる。

アクションラーニングの価値

 アクションラーニングの力と魅力は、組織の知識を最大化し、拡充する能力にあると同時に、重要で緊急かつ複雑な問題を解決することにある。問題解決は、個人、グループ、組織に即時に短期的な利益をもたらす(これが、組織がアクションラーニング・プログラムを始動させるための決め手となる)。
 それ以上に重要で長期的なアクションラーニングの価値は、組織全体や参加者のプロフェッショナリズムを通して獲得した学習を、体系立てて応用できるようにすることである。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

ここにある通り、アクションラーニングは問題解決を進めながら、
そのプロセスにおける学習の成果をメンバーが持ち帰ることで、
単発の問題解決で終わらせないことが価値であるとされている。

アクションラーニングでは、問題解決そのものよりも、学習することが究極的にはるかに価値があると考える。例えば、あるエンジニアリングの問題の解決は、100万ドルの価値があるとしよう。問題解決に必要な知識を組織全体で活用すれば、1000万ドルに値するだろう。プログラムを通してメンバーが習得した新しいリーダーシップ・スキルやグループ・スキルは、1億ドルの価値を生むだろう。その企業に在籍している間、各人がその新しいスキルを業務に応用していくからだ。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

・問題が解決されること
・問題解決に必要な知識が組織内で共有されること
・ALを通じてメンバーが成長すること

大きくこの3つがアクションラーニングの価値のようだ。
この3つが兼ね備えられており、かつメンバーの成長を
最も重視しているらしいことを念頭に置きつつ、
「何を」学習するものかを改めて紐解いてみる。

学習を司るALコーチの役割

と息巻いてみたものの、まずはALコーチの役割を確認する。
ALコーチはプロセスにおいて「学習」にコミットする存在。
少し遠回りのようだが、ここに大きなヒントがあると思う。

 ALコーチはメンバーに、①新しい知識と情報を得る、②いろいろなやり方で意味づけをする、③より効果的なグループ活動を展開する、④なぜそのような行動をとったかという理由をさらに深く理解する、⑤信念、価値観、前提を再考する、⑥感情とその影響を知る―ことを自覚させて、学習環境を整えていく。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

ALコーチがメンバーに「自覚させ」るべきことを
アクションラーニングにおける学習の目的語と捉えると

・業務遂行や問題解決に必要な知識、情報、知見
・チームや組織として協働するために必要なスキル
(傾聴やリーダーシップなどを含む)
・自ら省みて改善につなげられるリフレクションの作法
・(学習する組織のThe Fifth Desciprineに当たる)
自他のメンタルモデルの把握

等が習得できる、といったところか。

コルブの「学習サイクル」

「What」に向かう前に、
「いつ」「どのように」学習が行われるのかも見てみたい。

 学習はアクションラーニング・プロセス全般で行われており、質問し、省察し、学習する機会は、コルブの「学習サイクル」の各段階においてグループが問題に対処しているとき、あるいはグループがお互いの影響や行動を省察しているとき、いずれの場合も生じている。
 アクションラーニングでは、①具体的に経験すること、②その経験を観察し振り返ること、③その経験を標準化すること、④標準化した経験を検証することを通じて学習し、知識を得る。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

本書にはコルブの「学習サイクル」の図が掲載されているが、
ここでは紹介できないのでリンク先を参照願いたい。

上記4つのステップはアクションラーニングにおいて
2つのレベルに分けられるという。

【コルブの学習モデル:レベル1】
①具体的な経験
→グループで解決すべき「問題」を扱う

②観察とリフレクション
→ALにおける質問プロセスを通じ、
問題の解決策を練り、成功の可能性を見極める

③標準化と概念化
→酷似した状況下あるいは異なる状況下で、
どう行動を起こすべきかをグループで考える。

④標準化した概念の検証
→問題解決の効果を見るために、
行動計画を検証し、また新たな概念があれば
そえが将来的に有用かを検証する。

【内的なアクションラーニング・モデル:レベル2】
①グループ内での経験
→問題の再定義から始まるALの一連のプロセスを経て
メンバー間で経験を共有した後に戻ってくる(?)

②経験のリフレクション
→意思決定の質やグループの相互作用のスキル、
個人の学習についてのリフレクションを
ALコーチから求められることから生じる。

③効果的な点、改善点の認識
→グループとしてよりよい規範、原則、戦略をつくったり、
メンタルモデルの変容がもたらされる。

④新しい価値観と行動様式の実践
→ALコーチの力を借りながら、
価値観の刷新や変更によって
グループとしての能力が高まっているか、
他の問題に取り組むべきかなどを省察する。

 

①と②がレベル1から2に上がるだけでも、
AL的な場の意義があるということは直感的にわかる。
そういう意味で我々の勉強会において期待できるものを
予めわきまえておくことができると思う。
(でなければバーンアウトしてしまうかもしれない)

もう少し言えば、ALの場及びALコーチの介入を通じて
レベル1からレベル2に移行できるかどうかが
「ALが機能しているか否か」の判断材料の一つになりそうだ。

「何」を学習するのか

いよいよ本題に戻る。

「アクションラーニングが生み出す知識」として
掲げられているのは下記の5項目だ。

■対象を知る どのような知識が必要か突きとめる。
■方法を知る 知識をどのように取り扱うべきかを学習する。
■理由を知る なぜ特定の情報が必要なのかを判断する。
■場所を知る 必要な情報がどこで得られるかを知る。
■時期を知る ある情報が必要なときを見極める。

 アクションラーニング・プロセスの適切な段階で、これらの知識が集められ、選別され、体系的な方法で用いられる。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

野中郁次郎氏の「暗黙知」と「形式知」への言及もある。

 アクションラーニングでは、省察的な質問プロセスを通して学習と行動に焦点をあて、ALコーチによる質問形式のアプローチを導入することで暗黙知を形式知へと変える。この転換によって、グループや組織は暗黙知を活用できるようになり、双方によって素晴らしい、新しい資産および能力となる。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

暗黙知が埋め込まれているはずの経験を、
アクションラーニングを通じたリフレクションによって
学習の機会に転換するという試み。
ここにアクションラーニングの「学習」のエッセンスがある。

さらに、能力開発という観点があることも見逃せない。
ほとんどがメンタルに関わるスキルだ。

 アクションラーニングで個人が習得可能なスキルには、リフレクション、ALコーチからのメンバーへの問いかけとメンバーの質問、システム思考、傾聴、自己認識、共感、問題解決、意思決定、プレゼンテーションとファシリテーションなどがある。また生み出される価値ある能力としては、問題・行動・学習に焦点をあてる能力、フィードバックの提供・需要能力、しっかりとした自己規律と自己統制などが挙げられる。

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

ざっくり言えば、経験をベースとした学習のサイクルを
自力で回せるようになり、かつ同僚らと真に協働するための
スキルを伸ばす実践がアクションラーニングなのだろう。

宿題

ここまで、本にある内容を主として
アクションラーニングそれ自体の把握を試みた。

わかったことは、
アクションラーニングという言葉の指す領域は
書籍の中でも多少の揺れがある、ということだ。

アクションラーニングとは、広義には実践を通じて
個人や組織が学習するサイクルそのものを指すが、
一方で狭義にある特定の手法を指すケースがある。

個人的に今後学んでいかなければならないのは、
アクションラーニングを下支えする「経験学習」の理論だ。

これは、注目されているアクティブラーニングにも関わり、
今後の学習理論のコアを担っていくだろう。

早速関連書籍を読んでみたので、
機会があればそれも記事にまとめてみたい。

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