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「働くひとのためのキャリアデザイン」とキャリア・トランジション・モデル

カテゴリ:読書の記録

スローキャリア」の高橋俊介氏の著書を数冊読んだ後にトライ。
新書にしては300ページ超とボリュームがあり、ぱらぱら読むことが許されなかったので、Evernoteに逐一メモをとりながら読書。
約2週間かけて、ようやく読破しました。

整理の為に、メモに基づきながらここで本書の内容を簡単にまとめていきたいと思います。

本書の背景と著者の立場

世の中的に「キャリア」という概念が浸透しつつあることを否定するひとはいないでしょう。
(もちろん、組織によって、あるいは地方の人にとっては縁の薄いものかもしれません)

本書では、企業や組織、労働市場を取り巻く環境の変化、発展する経営学や組織論、生涯発達心理学など を取り入れながら、ひとの生涯を見通したキャリア理論が展開されています。
グローバルな動きとして、一企業内で完結するようなキャリアから職務や組織、仕事と家庭、産業の壁を超えて動く「バウンダリーレス・キャリア」が拡大しつつあります。国単位、職種単位で浸透度に差はあるものの、日本も例外なくこの流れの中にいます。
高橋俊介氏も「キャリアショック ―どうすればアナタは自分でキャリアを切り開けるのか?」等の著書で述べていますが、単に企業が従業員の雇用を保証するだけでなく、企業の枠を超え労働市場全体で通用するかどうかを見据えた自律的なキャリア形成が求められるようになってきました(エンプロイメントからエンプロイアビリティへ)。

本書の重要なポイントとして、ヤング・ミドル・シニアのキャリア初期~中期~後期まで一貫してキャリア・デザインについて論じている、という点は外すことができません。
著者も文中で触れていますが、特にミドル(40代周辺、中間管理職ポジション)時点でのキャリアへの眼差しが、随所にちらついています。

成熟に向かうか、枯れていくか、二極化すると言われているミドル。

僕は年齢的にも教育から雇用への移行に関心が向いてしまいますが、ライフコース全体を通したキャリア・デザインの議論に触れることができたのは有意義でした。
一方でなかなか実感がわかず飲み込めないところもありましたが、本書で推薦されているとおり、親や知人にヒアリングしながら読み進めるのが最も効果的かもしれません。

キャリア・トランジション・モデルとは

著者がよってたつキャリア理論が「キャリア・トランジション・モデル」。
「トランジション transition」とは文字通り「移行」という意味です。
ある時期から次の時期への移行するその「節目」に着目し、節目をデザインすることでキャリアを形成するのが「キャリア・トランジション・モデル」になります。

「節目」と書きましたが、それに気付くための四つの契機が紹介されています。

1.なんらかの危機
…どんづまり感、焦燥感

2.メンター(先輩、上司、身内etc)の声
…節目をくぐりぬけてきた人たちの声→チャンス、相談、手本・見本につながる

3.ゆとりや楽しさ
…あまりに楽しくはまっているときorいやでいやで仕方ないことがうまくできるようになったとき

4.カレンダー、年齢
… 昇進、昇格、異動、転職、年齢の節目、結婚、出産など

特に4についてはより容易に自覚が可能です。
キャリア初期、つまり新卒就職時なんかは、多くの場合はじめての「節目」ということになります。

節目をくぐるときには、概念として
・「終焉」…何かが終わる時期-整理、反省、終焉の受入
・「中立圏」…混乱や苦悩の時期-移行期、”宙ぶらりん”の感覚
・「開始」…新しい始まりの時期
の3つの段階を踏むことになります。これはある程度誰もが共有できるところではないでしょうか。 
失恋→乗り越える→次の恋愛、というプロセスを考えればわかりますが、この「終焉」を自覚し、うまく消化することができないと、次の恋愛でも同じ失敗を重ね、結局は同じところを堂々巡りするはめになりかねません。
節目を”うまく”くぐることで、堂々巡りから脱却し、螺旋を描くように上の段階へ一皮むけることができる、そう著者は主張しています。

これまでのキャリアや人生を振り返りながら、節目をデザインする。
その作法として、以下のように4つのステップからなるサイクルを意識することが大切です。

ステップ1.「キャリアにおける大きな方向感覚を持つこと」

キャリアの三叉路・四辻で、まず、自分がどこに向かっているかを自問してみること。 
具体性はここではそんなに求められていません。
僕の場合は「地元に帰る」ということ、そして最終的には「地元で死ぬこと」が大きな方向性としてあります。
「夢」や「人生の目標」、「志」といったくらいのイメージですね。

抽象的でうさんくさいかもしれませんが、人間は金銭や名誉のためだけに仕事しているわけではない、という立場に立てば、物質を超えた領域、精神性 もキャリア理論の範疇に組み込むのもそこまで不思議なことではありません。
幸せ=たくさんのお金があること、なんて思っている人は、もうほとんどいないわけですから。

ステップ2.「実際に次の道を(自分で)選ぶこと」

節目自体は自分の意思に反して訪れることがしばしばあります。
常に自分で適切な判断ができるほどの万全の準備ができないままに、節目をくぐることになることも少なくありません。

ときには自分だけでなく、メンターや友人、家族と相談した上で次の道を選ぶこともあるでしょう。
そこで重要となるのは、「最後は自分で選び取る(という感覚を持つ)こと」です。

当たり前に聞こえるかもしれませんが、キャリアは一人ひとりのもの。一つひとつのキャリアが特注品です。
自ら選ぶこと、そしてその選択に自覚的であることが自然と求められてきます。
(※自ら選ぶことと人生そのものが他の人と相互依存的であることは決して矛盾するものではありませんが、詳しくは本書をご参照ください)

ステップ3.「選んだ道にふさわしい適切な最初の一歩をきちんと歩むこと」

選択肢を選んだ後でも、「やっぱり違ったんじゃないか…」という不安はあるもの。
しかし、そこから先に進まないことには節目をくぐりきることはできません。 
宝くじは、買わなければ当たらないように。

ちょっとやそっとの努力で実が得られないことを嘆くのも困り者。
「最低必要努力量」という言葉を著者は使っていますが、それなりの投資があってはじめてリターンが期待できると考える方が納得性が高いと言えないでしょうか。

まずは一歩踏み出す。相応のエネルギーや努力を費やす。
その態度が、結果的にトランジションをよりよいものにしてくれるのです。

ステップ4.「周りの景色、出会い、いろんな偶然を大事にする、取り込むこと」

「節目はデザインするが、それ以外はデザインしすぎない」というのが著者の重要な主張です。
キャリアの8割は偶然に影響されている、というクランボルツ教授の「プランドハプンスタンス理論」があるくらいです。

人間には不確実なところがあるからこそ、それを前向きに捉える。
これは「複雑性」のような、比較的新しい(そして難解な)議論に近いと言えるでしょう。

ここで本書では「ドリフト」という言葉が紹介されています(「ドリフターズ」は”漂流者”という意味なんだそうで)。
著者は、節目をデザイン(流れをつくる)した上で節目と節目の間をドリフトする(流れを生かす)という立場に立っています。

そもそも、理想的で完璧なキャリアを描ききることなんて無理です(と、僕なら言い切ってしまいます)。
経験を積むごとに「あ、おれってこんなこともできるんだ」「これ、他の人より得意かも」と思うことは誰にだってあります。
自分自身の行動・思考の特性すら完璧に掴むことは不可能な状況の中、就職前の学生が自分の将来の計画をつくりあげるなんて、やっぱり無理があります。

「私はバリバリ仕事したい!」と思っていても、社会人2年目で「やばい、この人と結婚したい!」という出会いがあったら、どうするんでしょうか。
当初デザインしたとおり、バリバリ仕事するしかないのでしょうか。フツウ、悩みますよね。
デザインしておいたキャリアプランに修正が入ることは、むしろ当たり前のことのように思えます。

だからこそ、著者は節目だけはデザインしろ、後は偶然を上手く取り込みながらドリフトしろ、というメッセージを発しています。
もちろん、節目すらデザインしなければ「流されっぱなし」です。とりあえず会社にいることにだけ専念して時間を過ごし、ある日突然リストラされて呆然とする、なんてことには、なりたくないですよね。

まとめ-本書のポイントと感想

「節目だけはデザインする」、これが著者が繰り返し文中で主張していることです。

就職活動の自己分析などにみられる一般的な手法
(1)過去を振り返り、
(2)それを元に未来を描き、
(3)未来から逆算して現在(次の一歩)を考える
と、上で紹介したキャリア・トランジション・モデルは根本から発想が異なることがお分かりかと思います。

キャリア・トランジション・モデルは、どちらかというと「積み上げ」方式と言えます。
将来のビジョンを明確化し、それを逆算して緻密なキャリアプランを用意することよりも、「どのような方針で」「どれだけ」積み上げるかが関心ごととなっています。 
「プランドハプンスタンス理論」などの台頭からも見受けられるとおり、変化の激しい現代において、デザインされすぎたキャリアプランはかえって変化への対応を妨げ、結果的にキャリアやライフコースの充実を阻害する要因にすらなりかねません。

この記事ではあまり触れていませんが、本書はヤング・ミドル・シニアのキャリア発達課題を念頭に置きつつ、全体として”良い”キャリアを歩むための示唆を提示してくれています。
自らのキャリアを立ち止まって考えてみたい方は、ぜひ手にとって読んでみてください。
また、併せてプランドハプンスタンス理論の提唱者、J.D.クランボルツ教授著「その幸運は偶然ではないんです!」にも目を通すと、現在のキャリア理論のトレンドに触れることができ、本書の理解を助けてくれると思います。

本書はボリュームもさることながら、様々な分野からの引用も多いと感じました。
真に本書の内容を理解し、活用するためには、生涯発達心理学やキャリア理論の基礎的研究にまで手を伸ばす必要があります。
著者のキャリアの探究への意欲を強く感じる一方で、本書のみを読み深めるだけでは消化不良を起こすかもしれません。

僕自身も、理解はできるけど納得にまで至らない、という部分がいくつかありました。
とはいえ、自分なりのキャリアの捉え方について、全体感を把握できたことはかなり有意義だったと思います。

この本のより良い活用法としては、まずは本書で紹介されている理論やコラムに掲載されているワークを通して、実際に自分自身のキャリアを振り返ってみることに尽きると思います。
その実践の書としては、本書は十分な情報量を提供しています。ぜひ自分の手を動かしながら本書を読み進めてみてください。

金井 壽宏著:働くひとのためのキャリア・デザイン (PHP新書)

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新卒の就職活動に成功する人・失敗する人の唯一の違い

カテゴリ:読書の記録

今日、なんとなく読んでみた「はたらきたい。」が強烈に面白かった。
2008年3月に出版されたみたいだが、リーマンショック以後であっても魅力的な内容だと思う。

なぜか。
僕が就職活動や採用に関わったことを通してなんとなく見えてきたような気がした、 「就職活動がうまくいく人といかない人の違い」 の見分け方を、あっさりと言葉で言い表されたように感じたからだ。

「大切にしてきたことは、何ですか?」

この本は、5つの対談がメインとなっている。
僕の中で特に印象に残ったのは、一つ目と二つ目の対談だった。
一つ目、糸井重里氏と人材紹介会社の河野晴樹氏の対談にて。

河野氏がこう語る。

ですから、本当のことを言っちゃうと、新卒の面接をやる場合、「君がさ、これまで大切にしてきたことって何?」という、ものすごく概念的な質問で十分なんですよ。

糸井氏の返しがまた面白い。

いや、つまり、面接官がそう思ってるんだって知ったとき、「聞いてもらえた!」といううれしさと、「やばい、聞かれた!」というあせりと、どっちかの反応しか、ないですよね。

これだ!と思った。
新卒で就職活動に成功する人、失敗する人を分けるのは、きっとこの違いだけなんだ、と

ここからは僕の考え。
「大切にしてきたこと」は、モノでもいいし、具体的なことでもいいし、ポリシーでもいい。
そこに、ある種の一貫性のようなものが伴えばいいのかな、と僕は感じた。

「大切にしてきたこと」像をもう少し具体的にすると、以下の要素を含んでいるように思う。

他人に言えることか

「言える」というのは、「恥ずかしくて言えない」というのとはちょっと違う。
「人様に伝えて”問題ない”ことか」というくらいの意味だ。
たとえば、「毎晩家族にきちんとメールする」ことを大切にしているなんて他人に言うのは気恥ずかしいが、
「家族想い」と共感を得られるかもしれない。これは「言える」。

しかし「いかに自分ではなく、他人のせいにして事を逃れるか」を大切にしてきていると誰かに伝えたとしても、それを聞いていい反応が返ってくるとはあまり思えない。
問題ある発言だ。

※2010/12/05追記
単に、「言い方」が問題となるときもある。
価値観の話なのだから、絶対的に悪ということはあまりないからだ。逆に言えば、絶対的に善ということもまたない。

どんなにいい話でも、必ず共感を得られるとは限らない。
しかし、それが故に自分の「大切にしてきたこと」を人に伝えることに抵抗を覚える人がいる。
否定されたり、受け入れられなかったりしたときのことを危惧して。 これは、残念なことだと思う。

そう不安がる人へのアドバイスはおそらく2パターンある。
まずは表現の仕方を変えてみるということ。
相手に伝わるように言葉を選ぶ。別の言葉で言い換えてみる。
自分の大切にしてきたことのいい面、悪い面を整理してみるとよい。

もう一つは、他人の価値観を受け止めるようにするということ。
別に全肯定しろと言うわけではない。あるがまま受け止める。
その発想がないから、他人が自分の価値観を受け止めてくれるイメージも湧かないのかな、と思う。
そのためには、相手の価値観に対して中立な立場から、いい面、悪い面を抽出する必要がある。
相手の第一印象がよかったら、あえて悪い面に着目する。
逆に印象が悪かったら、あえていい面を強調しようとしてみる。
自分に偏りがあることを自覚し、それでも相手の価値観をまずは整理してみること。
自分が大切にしてきたことも、同じように整理してみるといい。

言っていることとこれまでやってきたことが矛盾していないか

言動が一致していないのなら、どうしても「大切さ」を疑ってしまいたくなる。
どちらかというと、「言葉」よりも、「行動」や「感情」が先立つのではないかと思う。
その後から「言葉」がついてくる。なんとか説明しようと試みる。そんなイメージ。
これが「一貫性」にもつながってくる。

間違っても「私はワークライフバランスが大切だと…」なんて発言はしないはずだ (ちゃんと腑に落ちているのなら別です)。
もはや自分の言葉で説明するしかないのだ。
「大切なこと」を、どこかから借りてきた言葉で ちぐはぐに表現してしまうなんて、大切にしている本人が最も耐えられないのだから。
就活でついついテクニカルな話題に振り回されている人も多くいるみたいだけれど、 「インディペンデントでいられるか」という糸井氏の表現があるが、 「大切にしてきたもの」があれば、それもきっとたやすい事なんじゃないかと思う。

仕事で大切なこと-「幹事のできる人」-

二つ目の対談は、漫画家のしりあがり寿氏と糸井氏。

しりあがり氏は「うちで重用するのは『幹事のできる人』」と話している。
これがまた深い言葉なんじゃないかと感じている。

ここからはまた僕の考えだが、『幹事のできる人』の要素はいくらでも挙げられる。
「いくらでも挙げられる」のがポイントなんじゃないかと思う。

・念入りな準備にエネルギーを割ける
・シナリオどおり、タイムスケジュールどおりに進行できる
・周りに助けてもらえる
・他人を動かすことができる
・参加者の”ツボ”がなんとなく分かる
・失敗しても許される
・一人で盛り上げることができる
・他人を生かして盛り上げることができる
・予想外の事態でもきちんとリカバリーできる

などなど。

これらすべての要素を持っている人はあまりいない。
でも、幹事をうまくやる人はすべからく、 自分自身の何らかの特徴を上手に生かして成功させるということをしているはずだ。
逆に言えば、「幹事をうまくやる」ためのアプローチは一通りではない。様々なアプローチが可能だ。

ここだ。ここにこそ着目すべきではないか。

仕事のやり方は一通りではない。適性なんてやってみないとわからない。
自分で自分が何に向いているか分からなくても、上司や先輩にはたぶん見えている。
彼らを信じ、彼らに従うことがやっぱり正しいのかもしれない。
それが思った以上に面白いなんてことだってたくさんあるはずだ。

就職する前から経験したこともない業種や職種に強い志望を持っている人がいるが、 僕からしたら、それはものすごく不思議なことだった。
(大学で言語を学んでエンジニアになりたい!というのはもちろん別)
やってみなければわからない。 だから、志望動機なんて考える暇があったら、「大切にしてきたこと」を掘り下げたほうがいい。
志望動機が「考えるもの」とも思えない。文章化する作業は必要だとしても。

というわけで激しくおすすめ

こう自分の意見を書いてしまうと、あまりこの本のよさが伝わらなかったかもしれない。

この本のいいところは、対談形式だから、きれいにまとまった言葉があまりないことだ。
だから、こうやって僕も自分の言葉で自由に説明したくなってしまう。
読んだ人それぞれの琴線に触れてくる言葉がいくつかあるはずで、 それは不思議と書かれた言葉以上のボリュームを帯びて自分の中に入ってくる。
この本を読んで救われる就職活動生も多いのではないか。
むしろ、この本を読んでもどうとも思わない人ほど行く末が不安だ。
(それは、すでにハイパーメリトクラシーでの勝負が決していることを意味する)

もちろん、勘違いしてはいけない。この本には、答えなんか書いていないんだから。

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なぜか。

僕が就職活動や採用に関わったことを通してなんとなく見えてきたような気がした、
就職活動がうまくいく人といかない人の違い
の見分け方を、あっさりと言葉で言い表されたように感じたからです。

「大切にしてきたことは、何ですか?」

この本は、5つの対談がメインとなっている。
僕の中で特に印象に残ったのは、一つ目と二つ目の対談だった。

一つ目、糸井重里氏と人材紹介会社の河野晴樹氏の対談にて。
河野氏がこう語る

ですから、本当のことを言っちゃうと、新卒の面接をやる場合、「君がさ、これまで大切にしてきたことって何?」という、ものすごく概念的な質問で十分なんですよ。

新装版 ほぼ日の就職論「はたらきたい。」 

糸井氏の返しがまた面白い。

いや、つまり、面接官がそう思ってるんだって知ったとき、「聞いてもらえた!」といううれしさと、「やばい、聞かれた!」というあせりと、どっちかの反応しか、ないですよね。

新装版 ほぼ日の就職論「はたらきたい。」 

これだ!と。 新卒で就職活動に成功する人、失敗する人を分けるのは、きっとこの違いだけなんだ、と。

ここからは僕の考えです。

「大切にしてきたこと」は、モノでもいいし、具体的なことでもいいし、ポリシーでもいい。
そこに、ある種の一貫性のようなものが伴えばいいのかな、と僕は感じています。

「大切にしてきたこと」像をもう少し具体的にすると、以下の要素を含んでいると考えられます。

他人に言えることか

「言える」というのは、「恥ずかしくて言えない」というニュアンスとは異なります。
「人様に伝えて”問題ない”ことか」というくらいの意味です。

たとえば、「毎晩家族にきちんとメールする」ことを大切にしているなんて
他人に言うのは気恥ずかしいけれども、「家族想い」と共感を得られるかもしれない。
だから、これは「言える」。

しかし「いかに自分ではなく、他人のせいにして事を逃れるか」を大切にしてきていると
誰かに伝えたとしても、それを聞いていい反応が返ってくるとはあまり思えません。
何か引っかかりのある、問題のある発言に感じます。

単に、「言い方」が問題となるときもあります。
価値観の話なのだから、絶対的に悪ということはまずありません。
逆に言えば、絶対的に善ということもまたないのです。
どんなにいい話でも、必ず共感を得られるとは限りません。

しかし、それが故に自分の「大切にしてきたこと」を他人に伝えることに抵抗を覚える人がいます。
否定されたり、受け入れられなかったりしたときのことを危惧して。
これは、率直に言って残念なことだと思います。

そう不安がる方へのアドバイスは2パターンかんがえられます。

まずは表現の仕方を変えてみるということ。
相手に伝わるように言葉を選ぶ。別の言葉で言い換えてみる。
自分の大切にしてきたことのいい面、悪い面を整理してみるとよいでしょう。

もう一つは、他人の価値観を受け止めるようにするということ。
別になんでもかんでも肯定しろと言う話ではありません。
あるがまま受け止める。
その発想がないから、他人が自分の価値観を受け止めてくれるイメージも湧かないのかな、と。
そのためには、中立な立場から、いい面、悪い面を抽出する必要があります。

相手の第一印象がよかったら、あえて悪い面に着目する。
逆に印象が悪かったら、あえていい面を見出そうとしてみる。
自分に偏りがあることを自覚し、それでも相手の価値観をまずは整理してみること。
自分が大切にしてきたことも、同じように整理してみるといいのではないでしょうか。

言っていることとこれまでやってきたことが矛盾していないか

言動が一致していないのなら、どうしても「大切さ」を疑ってしまいたくなります。
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その後から「言葉」がついてくる。なんとか説明しようと試みる。そんなイメージです。

これが「一貫性」にもつながってきます。
間違っても「私はワークライフバランスが大切だと…」なんて発言はしないはず。
「大切なこと」を、どこかから借りてきた言葉で ちぐはぐに表現するなんて、大切にしている本人が最も耐えられないはずなのですから。

就活でついついテクニカルな話題に振り回される人も少なくないようです。
「インディペンデントでいられるか」という糸井氏の表現がありますが、
「大切にしてきたもの」があれば、それもきっとたやすい事なんじゃないかと思えてきます。

仕事で大切なこと-「幹事のできる人」-

二つ目の対談は、漫画家のしりあがり寿氏と糸井氏。

しりあがり氏は「うちで重用するのは『幹事のできる人』」と話している。
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・念入りな準備にエネルギーを割ける
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・失敗してもキャラ的に許される
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などなど。

これらすべての要素を持っている人はいないでしょう。
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自分で自分の適正が分からなくても、上司や先輩にはきっと見えているはず。
彼らを信じ、彼らに従うことが実は正しい、なんてことも少なくないのではないでしょうか。
やってみたら思った以上に面白かったという経験はきっと誰しもが持っているはず。

就職する前から経験したこともない業種や職種に強い志望を持っている人がいます。
僕からしたら、それはものすごく不思議なことでした。
(大学で情報処理を学んでエンジニアになりたい!というのはもちろん別ですが)

やってみなければわからない。
だから、志望動機なんて考える暇があったら、「大切にしてきたこと」を掘り下げたほうがいい。

そもそも、「志望動機は考えるもの」という考え方が変です。
志望動機は文章化するもので、心の内にすでにあるものなのですから。

というわけで激しくおすすめ

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本書の良い点は、対談形式だから、きれいにまとまった言葉があまりないことだな、と。
だから、こうやって僕も自分の言葉で自由に説明したくなってしまうのでしょう。

読んだ人それぞれの琴線に触れてくる言葉がいくつかあるはずで、
それは不思議と書かれた言葉以上のボリュームを帯びて自分の中に入ってきます。

この本を読んで救われる就職活動生も多いのではないでしょうか。

むしろ、この本を読んでもどうとも思わない人ほど行く末が不安です。
(それは、すでにハイパーメリトクラシーでの勝負が決していることを意味する…)

もちろん、この本にだって、答えなんか書いていませんが。

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