「働きながら、社会を変える。」を読んだ僕が考えるべきこと

カテゴリ:読書の記録

 

マイクロファイナンスや児童養護施設の支援を手がけるNPO、Living in Peace(LIP)の代表を務める慎泰俊氏による著書。
タイトルどおり、普段はプライベート・エクイティ・ファンドで働きながら、パートタイムで社会貢献活動に当たる著者の言葉は、説得力があり、実践的で、真摯な姿勢に心を打たれます。

「この人、頭いいな。」

本書を読んだ率直な感想です。
ビジネスの第一線で活躍しながら、経済学はもちろん、児童養護施設にまつわる議論やデータの分析、文学をさらりと引用する教養。

「小林さん、これってすごいことですよ。普通に考えたらこんないい話はないと思うんです。だって、二〇年のあいだ月に五〇万円集められたら、それが四億円の施設と、毎年二〇〇〇万円の補助金にに変わるんですよね?国からのお金って安定しているから、毎年二〇〇〇万円出るってことは、現在価値に引きなおしてみても、六億円くらいの価値はありますよ。てことは、毎月の五〇万円が、十億円に化けるわけですし。」

働きながら、社会を変える。――ビジネスパーソン「子どもの貧困」に挑む

この計算を会話の中でできてしまうというのがすごい(デフォルメされているのかもしれませんが)。

(一応)海士町という現場で仕事をしている立場として、肩身の狭い思いをしました。
そこからすぐさま自分たちの進むべき道を描き、動く。
自分自身の専門性の生かし方のレベルが違うのです。

僕は現場で戸惑いながら少しずつやるべきことを探しています。
周囲はたまたまプロフェッショナルの集まりなので、いろんな場面で自信をなくします。
不安を感じながら、かすかなてごたえを頼りに、やるべきことに着手しようとしている段階です。

もちろん、ここには立場の違いがあります。
本書に例えると、僕は著者よりも児童養護施設の職員に近い立場にあります。
組織を回し、目的を達成するために、フルタイムのスタッフがやることは少なくありません。
前線で子どもと対峙する立場を譲って初めて、著者は自分ができることとやるべきことを一致させる方向性を見出すことができたのだと思います。

とはいえ、このスピード感にはどうにもかなう気がしません。

この本から学ぶべきこと

読後、印象的だったのは「インパクト」を出すことの重要性。
何か事を起こすときには、それがターゲットや世の中に対してどれだけ効果があるかをできるだけ明らかにすることが、持続的な運営の支えとなること。

僕自身強く関心を持っている「教育」の分野では、効果測定はなかなか難しいのが現状です。
最も測りやすいであろう「偏差値」についても、批判の多さから分かるとおり、指標として扱うには慎重さが肝要です。
(とはいえ、個人的には最も信頼すべきデータであるとは思っています)
最近流行の「社会人基礎力」は、今のところ的確な評価方法が見つけ出されていないようです。
アンケートをとったところで、その結果を信頼できるとは限りません。

空しさや戸惑いを覚えることも少なくありません。
「あれ、意味あったんだろうか。」「このアンケート、真に受けて良いんだろうか」
「こんなとき、どう言えばいいんだろう。」「ああ言ってはみたものの、本当に良かったんだろうか。」

その中で自分を支えているのは、「てごたえ」以外の何者でもない、と思っています。
それは残念ながら、目の前の業務をただこなすだけになっていては、決して見出せないものです。
当然、「てごたえ」を感じられるだけのエネルギーを注力することも求められます。

明確なリターンがないことに注力するのは難しい。しかし、力を尽くさなければてごたえは感じられない。
このバランス感覚を保ちながら日々の業務に当たることは、結構大変です。
公営塾のスタッフとして、生徒の成績が上がることを素直に喜べる仕事ができているのは、ある意味幸運かもしれません。

スタッフの意欲に支えられているのが現状です。
でも、それに頼ることが前提になってしまったら、結局は人に依存することになり、長期的な継続にシフトできないことになります。

将来的には、自分たちが何を目指し、どの数字をベンチマークとするのかを明確にする必要があります。
目指すものが共有できなければ「てごたえ」を感じるのは難しく、特に教育という分野においては、燃え尽きが懸念されます。

これ、実は介護の仕事にも当てはまると思っています。
高齢者の自立を支援することは、決して悪いことではありませんが、介護従事者は何を「てごたえ」とするべきなのでしょうか。

著者が提示する「ガバナンス」の観点は、何をするにしても、頭の片隅においておくべきだなと感じました。

僕が、これから考えるべきこと

図らずも、本書を読みながら「これから自分はどこへ向かうべきか」「何を身に付けるべきか」に思いを巡らすこととなりました。

僕は、海士町という地域の教育環境をより良いものとする仕事に携わっています。
そのモチベーションの源泉は「秋田に帰る」、その一点に尽きます。
考えるべきことは、二つ。

「秋田に帰る」ために、今の仕事から学ぶべきこと
「秋田に帰る」ために、今の仕事以外から学ばなければならないこと

さすがの地域活性化最先端の地・海士町。
ここで学ぶことは非常に多いです。特に、地域で働く上でのマインドだとか、仕事の進め方だとか。
ジェネラリストが育つ環境なのだなあと思います。

一方、地域性なのか分かりませんが、どうしても専門性を深めるのは難しくなります。
所属する組織がアーリーステージにあることにも関連するかもしれませんが、体系的な専門性の習得は難しく、日々手探りの状態です。
専ら要求されるのは文書作成と学習指導のスキル。もちろん、我流です。
幸い先達は多いので、諸先輩方を参考にさせていただいておりますが。

秋田に帰る上で、僕はジェネラリストとスペシャリストのどちらを目指すべきなのか。

「帰る」イメージを描きながら、模索する日々です。

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「困ってるひと」に今年一番心を動かされた

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(今更な感もありますが。)

ずいぶん前から話題になっていて、今年の7/29にAmazonで注文した後、ずーっと放置したままだったこの本。
ほぼ日に著者の大野更紗さんのインタビュー記事が出ていたので、ふと思い出して、手にとってみたら、あっという間に読了してしまいました。
思わず引き込ませる文章もさることながら、壮絶な(というべき)難病の「当事者」としての出来事の数々に、思わず呆然としてしまう読後感に襲われました。

著者の大野さんは「筋膜炎脂肪織炎症候群」と「皮膚筋炎」という難病にかかりました。
「二十四時間三百六十五日インフルエンザみたいな状態」が続き、それ以外にも様々な症状を抱えています。
つまり、”人並み”の日常生活を送ることが困難になったということです。

この本は、いわゆる「闘病記」ではない。もちろん、その要素も兼ねざるを得ないけれど。

困ってる人

前書きのこの断りが、実は重要です。
本書は病気と向き合う人間の姿勢、命の尊さ、そして感動…という”よくある”「闘病記」とは大きく異なるものです。
ここに描かれているのは、普通の(?)女子大生が突如として「当事者」になったお話です。
そこには読み手がときに恥ずかしくなるくらいの率直で、等身大の著者の姿があります。

ここで多くを語るつもりはありません。
というよりは、うまくこの本の良さを語ることができません。
一つだけ言えるとしたら、2011年で最も心を動かされたのは、この本だということです。

大野  だから、あたりまえのことをていねいに伝えていくという作法が、これからの日本社会では、すごく重要なんじゃないかなと個人的には思っています。「おもしろいと思って、おもしろいのをつくる」というのはちょっと違って‥‥。

ほぼ日刊イトイ新聞 – 健全な好奇心は病に負けない。 大野更紗×糸井重里

口語体の入り混じる文章、「闘病記」を期待すると痛い目を見るようなエンターテイメント性には、賛否両論があるかもしれません。
実際、Amazonのレビューでも酷評している人がちらほらいます。
中には「闘病者」としての態度に欠ける、という視点もあるようですが、残念ながらそれは「バイアス」の作用だと僕は思います。
むしろ、「闘病者」に対して我々が期待してしまうようなメンタリティから意図的に距離を置くことで、「25歳の女の子で難病の当事者」というリアリティを正確に、かつコミカルでやわらかに伝えようとしていると感じました。
この本には誰も「悪者」が出てこないことも、そして著者自身でさえ「正義」でもなんでもないんだよ、ということも、説教臭い教訓を飲み込んで「当事者」であることに徹したことを示しているように思えてなりません。
本書は「あたりまえのことをていねいに伝えていくという作法」に挑戦した結果なのだと思います。

と、ここまで書いて、自分の言いたいことが分かりました。

この本に書かれていることは、「美談」でもなんでもないんです。
日本人は「自分で何とかする」美談が大好き?でも書いた、その「美談」です。

だから、いいんですよ。この本。

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